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桟橋に艦影が並ぶノーフォーク海軍基地で、トランプ米大統領が違法薬物対策の「次の一手」を告げた。2025年10月6日、海上で「麻薬運搬船」を標的にしてきた作戦の成果を誇示し、今後は陸路の遮断に軸足を移す考えを強調した。9月以降に相次いだ攻撃映像の公開と死者数の公表で作戦は可視化され、米政権の対ベネズエラ姿勢も一段と強まっている。海から陸へ――対策の重心が動きつつあると映る。
ノーフォークで示した「海から陸へ」の合図
観閲台の背後で艦載機のジェット音が低く唸り、会場に集まった制服組の歓声が波のように広がった。大統領はそこで、海上の取り締まりが奏功したと述べ、「密輸側はもはや海に出ようとしない」との趣旨を示し、陸路の遮断へ意識を向けると強調した。演説は軍の記念行事の色彩を帯びつつ、対麻薬作戦の政治的メッセージが前面に出た構図だといえる。
この日言及されたのは、直前にカリブ海で実施された新たな攻撃である。米軍はベネズエラ沖の公海で、米国に向かっていたとする船舶を標的にしたと発表してきた。大統領は演説で「新たな一撃」を報告し、国防長官も継続実施を示唆した。現時点で確認されている範囲では、作戦は数週間で繰り返され、映像の公開も重ねられている。
誰に有利なのか。国内の治安と中南米情勢、どちらにも波紋は及ぶ。大統領発言は支持層に訴える一方、海軍・海兵隊の役割を誇示する舞台装置にもなった。海上抑止の圧力が密輸ルートを変えるという読みのもと、南部国境とカリブ海の動態が連動していく展開が浮かぶ。
「映像」と「数」が語る作戦の実相
9月3日、ベネズエラ発とされる船舶を米軍が攻撃した映像がSNSで拡散し、11人死亡との主張が示された。以降、当局は断続的に攻撃場面の動画を公開し、10月4日未明には4人死亡とする映像が新たに示された。現時点で確認されている範囲では、9月以降の映像公開は計4回に達し、政権は合計21人の死亡を主張している。
公開映像は、海面を疾走する小型船に弾着が網のように広がり、火球が立ち上がる瞬間を切り取る。これまでの対麻薬は沿岸警備隊の臨検・押収が主軸だったが、今回は軍による「キネティック」な手段が前面に出る。作戦の性格が、取り締まりから武力行使を伴う「敵対行為」へと傾斜している現実が透ける。
一方で、積荷の種類や量、死亡者の身元など、不明点は少なくない。米側は「麻薬テロリスト」と断じるが、独立検証は進んでいないとみられる。数字が独り歩きすれば、正当性の評価が追いつかない。映像の衝撃と政治的効果が先行するなか、事実関係の積み上げが後手に回る危うさが広がっている。
法の線引きと高まる緊張、ベネズエラをめぐって
米政権は、ベネズエラのマドゥロ政権や同国発祥の犯罪組織が密輸に関与していると主張し、軍事的圧力を強める。大統領は就任以降、国境や麻薬をめぐる非常事態の枠組みを相次いで整備してきた経緯がある。一部報道によれば、政権は議会に対し、麻薬カルテルとの「非国際的武力紛争」状態を通知したとされ、武力行使の法的根拠を広く解釈する動きがにじむ。
もっとも、海上での致死的な攻撃を正当化できるのかについて、国際人道法や海洋法の観点から疑義も出ている。拘束・拿捕ではなく攻撃に踏み切る判断、標的識別のプロセス、比例性の基準――いずれも説明責任が問われる領域だ。米国内でも元軍法務官らが法の適用に懸念を示しており、司法・議会の監視が焦点になるとみられる。
緊張は周辺海域の軍事プレゼンス拡大とも相まって高まっている。ベネズエラ側は主権侵害だと反発を強め、国際世論の分断も広がる。偶発から拡大に至れば、海の治安対策は一挙に地域安全保障の危機へと転じかねない。作戦の「成功」をどう測るのか。密輸を減らし命を救うという目的と、法の支配を守るという目的が、同じ地平で試されている。
