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トランプ米大統領が2025年11月17日、サウジアラビアに最新鋭ステルス戦闘機F35を売却する考えを示した。翌18日にはホワイトハウスでムハンマド皇太子と会談し、この問題を協議する予定だ。中東で唯一F35を運用してきたイスラエルの立場や、米議会の反発が予想されるなか、米国の中東政策の重心が静かに動き始めている。
トランプ政権が示したサウジへのF35売却方針とその規模
トランプ氏は2025年11月17日、ホワイトハウスの大統領執務室で記者団の質問に答え、サウジアラビアにF35を売却するつもりだと明言した。ロッキード・マーチンが製造するF35は米軍の主力戦闘機のひとつであり、同氏は18日にサウジのムハンマド皇太子と会談して詳細を話し合う考えだとされる。発言に先立ち、ホワイトハウス高官も両者の会談でこの案件が協議されると説明していた。
サウジはこれまでもF35導入への関心を繰り返し示し、米国に対して最大48機の売却を要請している。成立すれば数十億ドル規模の大型契約となり、米防衛産業にとっても大きな案件になる。国防総省の政策部門は数か月にわたって取引の妥当性を検討し、2025年11月上旬には重要な審査を通過したと報告されている。こうしたプロセスを経て、大統領が「売却する」と踏み込んだ発言を行った格好だ。
F35はレーダーに探知されにくいステルス技術を採用し、情報共有や電子戦能力も備えた世界最先端級の戦闘機とされる。イスラエルは約10年前から複数の飛行隊で運用しており、中東で唯一この機体を保有してきた。米国は、イスラエルが周辺国より高性能の兵器を維持する「質的軍事優位」（イスラエルの軍事的優位を確保するという方針）を守るかたちで、中東向けの武器輸出を調整してきた経緯がある。
中東の軍事バランスと米外交のジレンマが浮かび上がる
サウジへのF35売却が実現すれば、湾岸地域での空軍力の構図が変化し、長年維持されてきたイスラエルの質的軍事優位の定義が改めて問われることになる。トランプ氏は過去の政権でもアラブ首長国連邦へのF35売却を承認しており、高性能兵器を友好国に広く供給する姿勢を示してきた。今回のサウジ案件はその延長線上にありながら、イスラエルとの安全保障協力とのバランスを一段と難しくする選択でもある。
バイデン前政権も一時期、サウジとイスラエルの国交正常化を含む包括的な合意案の一部として、サウジへのF35供与を検討していた。しかし交渉は最終的に行き詰まり、機体供与は実現しなかった。トランプ政権が今回改めて売却を前面に出した背景には、サウジとの安全保障協力を強めつつ、イスラエルとの関係再構築も図りたいという思惑が読み取れる。同じF35をめぐる構想でも、政権ごとに組み合わせる外交パッケージが異なってきたことが浮かぶ。
一方で、米議会の存在は大きな不確定要素だ。議員の中には、2018年に起きたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害を理由に、サウジとの武器取引そのものに強い疑問を持つ人が少なくない。過去にもサウジ向けの兵器売却案が議会で厳しい精査を受けた経緯があり、今回のF35取引でも、人権や地域の軍拡を懸念する声が売却承認の行方を左右しそうだ。ホワイトハウス、国防総省、議会、そして中東諸国の思惑が重なり合うなかで、F35という一機種の行き先が、地域の安全保障の輪郭を映し出している。
