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トランプ米大統領は2025年12月18日、2028年末までに有人月面着陸を成功させる目標と、兵器の脅威から宇宙を守る方針を同時に掲げる大統領令に署名した。探査計画の「締め切り」を政治の言葉で前に押し出しつつ、安全保障では月周辺までを監視と防護の射程に入れる。期限と守備範囲が同時に広がるとき、現場の負担と選択肢はどう変わるのかが焦点になる。
月へ急ぐほど、工程と体制の「余白」が削れる
NASAはアルテミス計画で月面への再着陸を目指しており、公式サイトでは有人月面着陸となるArtemis IIIの打ち上げ時期を2027年の中頃と示している。今回の大統領令は「2028年末までに成功」という言い方で、実施そのものだけでなく、結果を出す時点までを政治目標にした。月面着陸はロケットだけで完結せず、着陸機や宇宙服など複数の新規要素の同時成熟が要るため、期限が前に出るほど遅延時の逃げ道は狭くなる。
さらにReutersは、この大統領令が新しいNASA長官（民間宇宙飛行士としても知られるジャレド・アイザックマン氏）の就任直後に出たと伝えた。組織トップの交代期に、月面着陸の確約と「コスト効率」の圧力が同時にかかれば、優先順位の付け替えは避けにくい。大統領令には2030年までに月面拠点の初期要素を整える方針も書き込まれており、単発の着陸ではなく継続滞在へ資源配分をどうつなぐかが、次の現実的な争点になる。
「宇宙を守る」は、月の周りまでを戦略空間にする合図
大統領令が示す安全保障の中心は、地球低軌道よりさらに外側の「シスルナ空間（地球と月の間の空間）」まで含めて、脅威を探知し、性質を見極め、対抗できる態勢を整えることだ。文書には、宇宙への核兵器の配置といった事態も念頭に置く表現がある。加えて、2028年までに次世代のミサイル防衛技術の試作と実証を進める方針も盛り込まれ、探査と防衛が同じ年限で並走する構図ができた。
ただし、宇宙空間の「線引き」には国際法の枠もある。国連宇宙部（UNOOSA）が整理する宇宙条約（Outer Space Treaty）では、核兵器など大量破壊兵器を軌道上に置くことなどを禁じている。一方で現実の懸念は、核に限らない妨害や接近、破壊能力の示威といったグレーゾーンに広がりやすい。中国も2030年までの有人月面着陸目標を掲げているとAPが報じており、競争の言葉が強まるほど「守る」議論は前に出る。月へ急ぐ政策は、探査の物語だけでなく、宇宙をどんな公共空間として維持するのかという問いも同時に突きつけている。
