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ホワイトハウスの会見場で質問が飛ぶと、ドナルド・トランプ米大統領は一拍置いて口を開いた。2025年11月22日、ロシアとウクライナの戦争終結を目指す28項目の米和平案について、「ウクライナへの最終提案ではない」と語ったのだ。前日にはウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国民向け演説で「歴史の中でも最も難しい瞬間の一つ」と訴えており、23日にはジュネーブで米欧とウクライナの安全保障担当者が集まり、案の修正を巡る協議に臨む予定である。
ゼレンスキー氏の「難しい選択」とトランプ政権の圧力
21日、ゼレンスキー氏はキーウからの演説で、米国が提示した28項目の枠組みを巡り、ウクライナが「尊厳を失うか、重要なパートナーを失うかという非常に難しい選択」に直面し得ると語った。全面侵攻が始まった2022年以降で最も重い圧力だと述べ、厳しい冬と継続する空爆を念頭に国民の結束を呼びかけた。米国や欧州の支援が防空や情報面で不可欠である一方で、国家としての尊厳や主権を損なう条件は受け入れられないという姿勢をあらためて示した形だ。
一方のトランプ氏は22日、記者団に対し「どのみち戦争は終わらせなければならない。我々はそのために取り組んでいる」と強調しつつ、今回の案は今後も修正し得ると示唆した。だが米政権は感謝祭までに大枠の合意を得たい考えとされ、情報提供や武器支援を梃子にキーウへ圧力をかけているとの報道もある。ゼレンスキー氏は、公には冷静な協議と代替案の提示を約束しながら、裏では主要パートナーと連携して、どこまで譲歩できるのか綿密に探っているとみられる。
領土譲歩と軍縮条件に揺れる同盟国の懸念
南アフリカで開かれているG20サミットでは22日、カナダや欧州連合、日本などの首脳が共同声明を発表し、米案には「公正で永続的な平和に必要な要素も含まれる」が「さらなる調整が不可欠」だと指摘した。武力による国境変更は認められないという原則をあらためて明記し、ウクライナ軍の規模を制限する案については、将来の攻撃に対して同国を脆弱にしかねないと懸念を示した。NATO（北大西洋条約機構）の拡大やEUとの関係を巡る条項についても、最終的には各加盟国の同意が必要だと釘を刺している。
流出した草案によれば、ウクライナは東部ドネツク州の一部から撤退し、隣接するルハンスク州や2014年にロシアが併合したクリミア半島でのロシア支配を容認することが盛り込まれているという。南部ヘルソン州とザポリッジャ州の境界線も、現在の前線に沿って固定する構想だ。ロシアはすでにウクライナ領土のおよそ2割を実効支配しているとされ、この案は既成事実化に近い内容とも受け取られている。さらに、ウクライナ軍の人員を60万人に抑え、同国には「信頼できる安全保障の保証」を与える一方、ロシアには制裁解除や主要国枠組みへの復帰を通じて世界経済への再統合を認める方向が示されているが、その具体像はなお不透明だ。
ジュネーブ協議と続く前線の現実
23日に予定されるジュネーブでの会合には、マルコ・ルビオ米国務長官やスティーヴ・ウィトコフ米特使、イギリスのジョナサン・パウエル国家安全保障顧問らが顔をそろえる。フランスとドイツの担当者、ウクライナ側のアンドリー・イェルマーク大統領府長官も出席し、28項目の修正や安全保障の具体化を巡って協議する見通しだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米案が合意の基盤になり得るとしつつも、クレムリンとして詳細を検討したわけではないと述べ、「柔軟性」を示す用意と戦闘継続の両方に言及している。
前線では、ロシア軍が南東部を中心にじわじわと前進し、多数の死傷者を出しながらも長大な戦線を維持していると伝えられる。ウクライナ側は米国製の防空システムや先進兵器、ワシントンからの情報支援に大きく依存しており、外交交渉の行方は戦場の持久力にも直結する。G20会場の片隅で腕を組みながら議論する首脳たちの硬い表情には、紙の上の条件だけでは測り切れない、戦況と同盟関係の重さがにじんでいる。
ベージュの椅子の前で立ち話を続ける4人の指導者の姿は、一枚の写真にすぎない。それでも、その沈黙の間合いには、遠く離れた前線の寒さと、まだ形の見えない和平の輪郭が重なっているように見える。
