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米国のドナルド・トランプ大統領が12月5日、新たな国家安全保障戦略(NSS)を公表した。文書は、欧州が大量移民による人口構成の変化で「文明の消滅」に直面していると警告し、大量移民の時代を終わらせると位置付ける。さらに、安全保障の焦点を中国との大国間競争よりも、中南米を含む西半球の統制へ振り向ける内容だ。国境に暮らす人々や同盟国の安全は、この「地域優先」の転換で誰が守られ、誰の不安が強まるのかが問われている。
国境と受け入れ社会にのしかかる「移民=脅威」論
NSSは、西半球における不法移民や犯罪を「喫緊の脅威」と位置付け、世界各地に展開する米軍のプレゼンスを再編し、地域への集中を求めている。米軍はすでにカリブ海などで麻薬密輸船への攻撃や部隊展開を強めており、こうした動きが国境の治安向上につながるとみる有権者も多い。だが、軍事力で移動を抑え込む発想が、人道危機から逃れる難民や地元住民の生活にどのような影響を与えるかについては、慎重な検証が欠かせない。
欧州についてNSSは、経済停滞や検閲に加え、大量移民による「人種の入れ替え」が進めば、20年以内に欧州は今と見分けがつかなくなると記す。さらに、各国で台頭する極右政党と同じ方向性を支持し、現在の進路に抵抗する勢力を「育む」とまで書き込んだ。緊密な同盟国に対しここまで踏み込む表現に、ドイツ政府は「外部からの助言は不要だ」と即座に反発している。欧州内部でも、移民を社会の一員として受け入れてきた人びとから、米国の言葉が分断を深めるとの懸念が出ている。
アメリカ国内では、民主党のグレゴリー・ミークス下院議員が、今回のNSSは価値観に基づく米国のリーダーシップを放棄し、「臆病で恥ずべき世界観」を支持していると厳しく批判した。移民や難民を安全保障上の「侵入」とみなし、国境管理を最優先する姿勢は、すでに厳格な審査を経て暮らしている移民コミュニティにも不安を与えかねない。安全の名の下に誰の権利が制限されるのか、その線引きこそが国境地域の住民にとって切実な論点になりつつある。
「世界から西半球へ」 トランプ版NSSが示す地図
トランプ大統領はNSS序文で、あらゆる行動で「アメリカ・ファースト」を掲げ、米国が世界秩序全体を支える役割から退くと強調した。一方で、中国など他の大国による支配は許さないとしつつ、そのために血と財産を浪費することはしないと述べる。従来のNSSが世界各地での同盟維持と大国間競争を中心に据えてきたのに対し、今回の文書は、自国周辺と国境管理を軸に、安全保障の地図を書き換えようとしている。
新戦略の柱は、西半球の安定を他地域より優先する点にある。文書は、麻薬カルテルや違法移民の流入、敵対勢力によるインフラや資源への浸透を阻むため、軍事力や経済力を米州に集中させる方針を示した。米政府高官や各種報道は、19世紀のモンロー主義を現代版としてよみがえらせる「トランプ版コロラリー」と表現している。これにより、中東やアフリカでの大規模な地上介入は抑えつつ、中南米近海での軍事プレゼンスを強める構図が浮かぶ。
他地域への関与は「選択的」になる。インド太平洋では「自由で開かれた」海域と台湾の現状維持をうたいながらも、中国を主に経済的な競争相手として描き、軍事的対立は前面に出さない。一方、ロシアのウクライナ侵攻については、現行路線を支持する欧州政府を批判し、早期停戦と「戦略的安定」を優先する姿勢がにじむ。大国間競争より、移民や麻薬、国境管理といった足元のリスクを優先する構図は、トランプ政権2.0の外交全体にも通じる特徴だ。
同盟国と日本に迫る「自前の安全保障」の現実
欧州では、米国が同盟国を名指しで批判し、極右政党と歩調を合わせる姿勢に、戸惑いと警戒が広がっている。NSSは、欧州連合(EU)や一部政府が民主的プロセスを損なっていると断じ、欧州内の「反体制」勢力を支援する意向まで示した。ドイツが「外部からの助言は不要」と反論したのは、単なる言葉の応酬ではなく、米欧間で民主主義や移民政策をめぐる価値観の溝が深まっていることの表れだろう。
東アジアの同盟国にとっても、今回のNSSは重い宿題を投げかける。表向きには「自由で開かれたインド太平洋」や台湾の平和と安定へのコミットメントが維持されたが、戦略全体の優先順位は西半球に移った。将来、米軍のリソースが米州にさらに振り向けられれば、日本や韓国、オーストラリアなどは、自前の防衛力や地域連携を一段と強めざるを得ないとの見方も出ている。
トランプ版NSSは、移民と社会の変化を「存在そのものを脅かす危機」と捉え、西半球中心の安全保障体制を描き出した。しかし、そのコストを誰がどこまで負担するのか、国境に暮らす住民、移動を強いられる人びと、米国に依存してきた同盟国の間で答えは分かれている。米国が世界の「警察官」を降りるなら、その空白をどう埋めるのか――静かだが重い問いが、日本を含む多くの国に突きつけられている。
