米大統領がベネズエラ政権に圧力強化　退陣迫る“直接通告”の重み

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2025.11.30

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米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は29日、トランプ米大統領が先週、ベネズエラのマドゥロ大統領と電話会談し、自発的な退陣を迫ったと報じた。退陣に応じなければ、武力行使を含む「さまざまな選択肢」を検討し得ると伝えたとされる。　長年の政治・経済危機に直面してきたベネズエラの人びとにとって、この新たな圧力は何を意味するのか。

制裁下の暮らしに「軍事オプション」が重くのしかかる

ベネズエラでは、物価高や医薬品不足に加え、米国などによる経済制裁が続き、日常生活はすでに長く不安定な状態にある。そこに米大統領からの軍事行動示唆が重なれば、人びとは新たな避難や制裁強化の可能性を意識せざるを得ない。首都カラカスだけでなく、周辺国に逃れた難民や移民にとっても、情勢悪化は送金や移動の制約として跳ね返る。

今回の電話会談では、マドゥロ氏や側近への「恩赦」の可能性も意見交換されたと報じられている。　政権幹部の安全保証が示されれば、平和的な権力移行につながる余地が生まれる一方、「国外追放か軍事圧力か」という二者択一が強まれば、現場の緊張は一段と高まる。軍や警察がどちらのシグナルを強く受け取るかで、市民への対応も大きく変わり得る。

人道支援団体はこれまでも、制裁や政治対立が医療・食料不足を悪化させていると懸念を示してきた。軍事オプションが現実味を帯びると、支援物資の輸送ルートや保険の引き受けにも影響が出る可能性がある。近隣のコロンビアやブラジルには多くのベネズエラ難民が流入しており、彼らを受け入れる自治体の負担も増している。軍事的な緊張の高まりは、こうした受け入れ側の社会にも新たな負荷を積み増す。

対話と圧力の「両にらみ」を続けるトランプ政権

トランプ大統領は11月中旬の会見でも、マドゥロ氏との直接対話に前向きな姿勢を示す一方、米軍の派遣を「排除しない」と述べている。　カリブ海周辺では、米軍艦や戦闘機の展開が強化され、麻薬取引組織を標的とした攻撃も行われている。政権は「麻薬・犯罪対策」と「独裁打破」を同時に掲げ、外交と軍事圧力を組み合わせる戦略をとっている。

一方、同じウォール・ストリート・ジャーナルは今月初め、トランプ氏がベネズエラへの本格的な軍事行動について「成功するか疑問視している」と側近に漏らしたとも伝えている。　攻撃を行ってもマドゥロ政権の崩壊につながるとは限らず、逆に反米感情を煽って求心力を強めるリスクもあるためだ。こうした逡巡があるからこそ、恩赦案など「出口」を探る動きも電話会談に盛り込まれたとみられる。

トランプ氏がベネズエラへの軍事オプションに言及するのは今回が初めてではない。2017年には、南米の同国に対し「軍事的選択肢を排除しない」と公の場で発言し、ラテンアメリカ諸国の強い反発を招いた経緯がある。　その後も政権内では介入案が断続的に議論されてきたが、国内外の政治コストをどう抑えるかが常に課題となってきた。

地域秩序と国際法のあいだで揺れる選択肢

米国が軍事オプションに踏み込むかどうかは、ベネズエラだけでなく中南米全体の秩序に直結する。かつてトランプ氏が側近にベネズエラ侵攻の可能性を問いかけた際、周辺国の支持を失う危険が指摘されたと報じられている。　中南米では、軍事介入の歴史的記憶が根強く、たとえマドゥロ政権に批判的な政府であっても、武力介入には距離を置く傾向が強い。

また、今回の電話会談で語られたとされる「恩赦」は、国際刑事裁判所などの枠組みとも絡み合う。人権侵害が問われる指導者に対する免責は、短期的な停戦や退陣を促す一方で、被害者の正義や将来の抑止力を損なう懸念もある。どこまでの行為を誰が裁き、どの範囲を政治的取引として認めるのかという難問が、ベネズエラのケースにも突きつけられている。

軍事行動、制裁強化、交渉による移行――いずれの選択肢にも大きな代償が伴う。最終的に問われるのは、ベネズエラの人びとの安全と尊厳をどこまで中心に据えた解決策を描けるかどうかだろう。