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米国のトランプ大統領が、ロシアの侵攻が続くウクライナに大統領選の実施を迫っている。9日公開の米政治サイトPoliticoのインタビューで「戦争を口実に選挙を避けている」とゼレンスキー政権を非難し、民主主義の正統性に疑問を投げかけた。だが、砲撃と避難が続く国で、今すぐ投票を行うことは現実的なのか。
砲火の下で投票所を開けるのか
ウクライナでは2019年に選ばれたゼレンスキー大統領の5年の任期が24年5月に満了した。本来ならその前に大統領選が行われるはずだったが、22年の全面侵攻以降、全土で戒厳令が続き、国政選挙は事実上凍結されている。日本テレビなどの報道によれば、政府は国内情勢を理由に春の選挙実施を見送ってきた。
憲法自体は戒厳令下の大統領選を明文で禁じていないが、戒厳令は政治活動や移動を制限し、選挙管理委員会も「現状では自由で公正な投票は難しい」とみて準備を進めていないと、独メディアDWや英紙The Guardianは伝える。議会選挙も延期され、政治日程全体が戦時体制に縛られている。
実務面の壁も厚い。ミサイルやドローン攻撃が続くなか有権者を投票所に集めれば、空襲の標的になりかねない。東南部の占領地域に住む人々や、国外に逃れた数百万人の避難民をどう投票対象に含めるのかという問題もある。住民登録の更新や国外投票の仕組みづくりには、多額の費用と人員が必要になる。
「独裁者」批判と正統性を巡る駆け引き
それでもトランプ氏は、以前からゼレンスキー氏を「選挙をしない独裁者」と呼び、今回のインタビューでも「彼らは戦争を利用して選挙を行わない」と攻撃した。ロシアが優勢だと繰り返し主張しつつ、米国が提示した停戦案を受け入れるよう迫る発言も、Bloombergや欧米メディアが相次いで報じている。
同じ論点はロシアのプーチン大統領も利用している。選挙が開かれていないことを理由にゼレンスキー氏を「非合法な指導者」と位置づけ、停戦交渉には権限を議会に移すべきだと主張してきた。これに対しゼレンスキー氏は、米Reutersによれば、同盟国が安全確保や費用負担を約束するなら、数カ月以内の選挙に前向きだとの姿勢も示している。
ウクライナの憲法学者らは、次の大統領が選出されるまで現職の権限は維持されると解釈しており、任期満了だけで違法とはいえないとDWに語っている。一方で、長期化する戦争のなか「いつ、どのように政治的な刷新を行うのか」という問いは重いままだ。停戦への道筋と選挙のタイミングをどう切り分けるのかが、ウクライナと支援国に突きつけられた課題になっている。
