トランプ大統領、9月25日にTikTok米事業移管へ署名見通し

米ホワイトハウスの高官によれば、ドナルド・トランプ大統領が2025年9月25日に、TikTokの米国事業を新設の合弁会社へ移す契約に署名する見通しだ。中国本社からの切り離しを義務づけた法律の要件を満たすことを狙う動きで、アプリ継続の可否を左右する節目になる。米当局は安全保障上の懸念とユーザー保護の両立を図りつつ、移行の実行性を見極める段階に入った。

何が決まったのか

今回の署名は、合弁会社への移譲という取引の枠組みが連邦法の要件を満たすと大統領が宣言する性格を持つ。大統領令の形で示され、政府として「この分離は合法かつ十分だ」と位置づける意味合いが強い。米報道では、米国内に拠点を置く新会社が運営を担い、経営権は米側が握る構図になるとの見方が広がる。取引の最終形はなお詰めの局面にあるが、法執行の猶予と並行して組成作業が進む。

所有構成の詳細は現時点で完全には公表されていない。複数の米メディアは、親会社であるByteDanceの関与を大幅に抑える案や、取締役会の過半を米側が占める案が検討されていると伝えている。アルゴリズムやデータの管理権限をどこに置くかも交渉の核心だ。米側での監督体制を厚くし、アプリ運営と本社の距離を制度的に担保する設計が焦点になる。

政府筋は、法の定める期限運用を調整しつつ、取引の実行に必要な時間を確保する考えを示してきた。取引成立後は、米国内でのデータ保護、推薦システムの検証、ガバナンス監督の各レイヤーが連動して動く。今後は当局による適合性評価と、関係各社の実装計画が走る流れだ。大統領令の署名は、その全体工程を前に進める政治判断と位置づけられる。

背景にある法律とこれまでの経緯

根拠法は「外国の敵対者が管理するアプリケーションからアメリカ人を守る法」だ。2024年に成立し、TikTokのように外国の敵対者に管理されると定義されるアプリについて、米国内での配信や更新に関与する事業者を禁止対象とした。適用対象の定義、禁止行為、執行権限の配分を条文で細かく規定し、違反には民事制裁を科す枠組みである。

トランプ政権発足日に公表された大統領令は、同法の運用に伴う時期と手続のずれを調整する内容だった。法の発効と政権移行の重なりによって、当局による執行や罰則適用に混乱が生じないよう、司法省に対し一定期間の不執行方針を指示した経緯がある。これにより、事業側にとっての法的な不確実性は一部緩和された。

一方で、政治とプラットフォームの関係は複雑さを増した。TikTokの米国内ユーザー規模は巨大で、選挙や世論形成への影響力も無視できない。政権側は安全保障上の懸念と、表現・商取引の自由とのバランスを取る必要がある。そのため「完全な売却」か「厳格な分離と監督」かという二者択一ではなく、法の要件を満たすための実務的な落としどころを探ってきた。

残る不透明点と今後の焦点

最大の不確定要素は、技術とガバナンスの切り分けをどう実装するかに尽きる。運営会社の取締役会の構成、外部監督の権限、内部監査の頻度と範囲、そして違反時の是正手順などは、細目で大きく実効性が変わる。アルゴリズムの学習データとモデル更新の権限設計も難題だ。モデルの改変や再学習の承認フローを誰が握るかで、実質的な影響力の所在が決まってしまう。

データの所在とアクセス管理も鍵になる。米国内のインフラにデータを置くとしても、運用の現場では保守運用やログ解析に海外拠点が関与し得る。鍵管理、運用権限の委譲、第三者監査の可視性など、ゼロトラストの原則を貫ける設計が求められる。クラウドやCDNの多層構成にまたがるため、技術的な監督だけでなく契約上の制約も精緻に整える必要がある。

法手続の観点では、当局が「分離は法の要件を満たす」と認定した後も、民間や州政府からの異議申し立てがないとは限らない。議会監督や裁判所の判断が、取引の運用に影を落とす可能性は残る。合弁会社の資本構成や取締役の選任が確定し、データとアルゴリズムの運用体制が稼働した段階で初めて、禁止規定のリスクが具体的に後退すると言える。署名は大きな一歩だが、実装と検証の歩みを止められない局面に入った。

現時点で確認されている範囲では、政府は署名と同時に法の期限運用を調整し、移譲の実務を前に進める構えだ。今後の発表で、経営権の配分、監督機関の構成、アルゴリズムの扱いがどこまで米側に寄るかが見えてくる。安全保障と自由な競争の接点をどこに置くのか。大統領令の文言、監督当局のガイダンス、そして企業側の開示が、次の評価軸になる。