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冷え込みが戻った夜明け前、街の給湯管から白い湯気がわずかに立ちのぼる。そんな気配の裏側で、ウクライナのエネルギー基盤は大きく傷ついている。10月9日、複数の関係者の話として、ロシア軍の攻撃でガス生産の約6割が失われたとの報が伝わった。厳冬を前に、政府と企業は追加輸入や節電策を急ぐ局面に入ったと映る。
止まるガス、響く衝撃—被害と数字が示す冬の重み
ウクライナ東部ハルキウ州と中部ポルタワ州。10月2日から3日にかけて、ガス採集・処理の要となる施設が一斉に標的となった。一部報道によれば、国営ナフトガスは2022年2月の侵攻開始以降で最大の被害を受け、国内の生産能力は短期間に急減したとされる。現場では機器の焼損や送配管の損傷が相次ぎ、復旧計画の見直しを迫られているとみられる。
9日に伝わった試算では、ガス生産の約60％が失われ、来年3月までに約22億ドル規模の輸入が必要になるという。攻撃が続く場合、必要輸入量は最大で44億立方メートルに拡大しうるとの見立てもある。これは年間消費の約2割にあたり、足元のストレージや配給計画だけでは乗り切れない可能性を示唆する数字だ。調達資金の手当て、輸入先の多角化、そして系統の再強靱化が同時並行で問われている。
数字は冷徹だが、生活は待ってくれない。暖房、調理、産業用熱——すべてがガスの安定供給に寄りかかる。一部報道によれば、政府内では価格高騰を抑えるための補助と、需給逼迫時の節ガス要請を組み合わせる案が練られているという。輸入単価の上振れが財政を圧迫すれば、社会的コストの配分をどう設計するかが新たな政治課題として浮かぶ。
ザポリージャ原発、外部電源の復旧へ—始動した「時間との闘い」
原子力の現場でも静かな緊張が続く。南部ザポリージャ原発の周辺で発生した軍事活動により、9月23日に送電線が損傷。外部電源を失い、非常用ディーゼル発電機で原子炉の冷却が続けられてきた。10月9日、国際原子力機関（IAEA）のグロッシ事務局長は、外部電源の復旧に向けたプロセスが開始されたと述べ、完全復旧までは時間を要するとの認識も示した。
原発の安全は冗長性の連鎖で守られる。非常用電源はある。しかし、長期にわたり外部電源が途絶した状態は決して望ましくない。冷却や監視の負荷が高まり、予防保全の余地が狭まるからだ。IAEAは継続的に現地の状況を監視し、運転員の安全確保、電源の安定、外部からの砲撃リスク低減という三つの要件を重ねて指摘してきた経緯がある。今回の「プロセス開始」は、小さくとも不可欠な第一歩と映る。
9月以降の停電事案は、送電線という一点の脆弱性がシステム全体のリスクに変わることを改めて示した。予備線の敷設や変電設備の再配置、現場アクセスの安全回廊といった技術・運用面の対策に加え、戦闘行為の抑制を求める外交的圧力も要る。IAEAトップが口にした「時間がかかる」という言葉は、工事の工程だけでなく、合意形成の難しさも含意しているように映る。
冬を越える設計図—輸入、節約、修復の三本柱
ガスの大幅減産と原発の不安定化という二重苦を前に、ウクライナが描くべき設計図は明快だ。第一に、緊急輸入の前倒しと調達先の分散である。欧州のガス市場は季節性と地政学で振れ幅が大きい。契約の期間や指数連動の条件を分散させ、価格ショックの波をならす工夫がいる。加えて、逆送ルートやLNG受け入れの回廊を柔軟に使えるよう、隣国との運用ルールを事前に詰める必要がある。
第二に、需要側の賢い節約だ。家庭や公共施設の暖房温度の見直し、企業のピークシフト、都市ごとの節ガスメニュー。小さな積み重ねは、危機時にこそ効いてくる。料金の急騰が避けられない場面では脆弱層の保護が要るが、広範な補助は需要を刺激しやすい。ターゲットを絞った支援と節約行動の可視化で、納得感を高めることが肝になるとみられる。
第三に、壊れた設備を直し切るための資材・人員・治安の三点セットだ。送配管、圧縮機、計測系——交換部材の確保は国境をまたぐ。保険や安全確保の枠組みなしに現場は動かない。国際機関の監視と資金支援、企業の復旧部隊、治安当局の護衛。どれが欠けても工程は止まる。現時点で確認されている範囲では、外部電源復旧の兆しと、輸入増の必要性が並び立つ。冬が本格化する前に、両輪を噛み合わせられるかが試されている。
