ウクライナ代表団が米国へ　交渉トップ交代で和平戦略は新段階へ

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2025.11.30

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ウクライナのゼレンスキー大統領は11月29日夜の演説で、国家安全保障・国防会議書記ルステム・ウメロフ氏が率いる代表団が、ロシアとの戦争終結に向けた協議を続けるため米国へ向かったと発表した。代表団は、今月スイス・ジュネーブで行われた米側との協議を踏まえ、和平に向けた具体的な「次の一手」を詰める役割を担う。前線ではミサイルや無人機攻撃が続き、停電や犠牲者も出る中での出発だ。この交渉団トップ交代は、ウクライナの和平戦略と政権中枢の力学をどう変えるのか。

続く攻撃と停電、市民が託す「尊厳ある和平」への期待と不安

代表団が米国へ向かった同じ週末、ロシア軍のミサイルと無人機攻撃で首都キーウや周辺地域では死傷者が相次ぎ、市内の一部では電力が長時間途絶えた。空襲警報のサイレンと暗闇の中で暮らす市民にとって、和平協議の再開は生活を取り戻すための数少ない希望である一方、その中身次第では長期的な安全を損ないかねないという不安も付きまとう。

今回の協議は、トランプ米大統領が提示した28項目の和平案を土台にしつつ、ジュネーブでウクライナ側が示した対案をさらに詰める場とされる。ただし、この案はロシア寄りだと懸念する声も欧米メディアで報じられており、前線で戦う兵士や避難民の間では「戦争が終わること」と「受け入れ可能な条件」が両立するのかが最大の関心事になっている。

ゼレンスキー政権は国内向けには「領土の一方的な譲歩は認めない」と繰り返し、国外には「尊厳ある和平」を目指すと強調してきた。だが、冬を前にしたエネルギー不足と長期戦による疲弊が深まる中、市民の一部には「どこまで耐えるべきか」という葛藤もある。今回の米国での協議は、戦場だけでなく日常生活の行方をも左右する節目として受け止められている。

汚職捜査で側近が辞任、ウメロフ新責任者が背負う重い舵取り

ゼレンスキー大統領は28日付の大統領令で、ウメロフ氏を和平交渉団の新たな責任者に任命した。これまで代表団を率いてきた大統領府トップが、自宅などへの汚職捜査を受けて辞任したことに伴う交代だ。戦時下の政権を支えてきた中心人物の退場は、一部の海外メディアから「ミニ政変」とも評され、ゼレンスキー政権の権力構造に亀裂が走ったことを示した。

新たに前面に立つウメロフ氏は、安全保障会議書記であり、かつて国防相も務めた人物だ。ロシアとの捕虜交換など実務的な交渉を担ってきた経験もあり、実務肌の交渉人として知られる。一方で、これまで大統領府の側近が一手に握ってきた外交・和平カードが、今後はどこまで分散されるのかは見通せない。権限の再配分は、交渉の柔軟性を高める半面、意思決定のスピードを落とすリスクもある。

国内では、汚職疑惑への不満や戦況への焦りから、政権に対する支持はかつてほど盤石ではないと分析されている。こうした中で、ウメロフ氏は「戦争を終わらせる一歩」を模索しつつも、政権の正統性と透明性を内外に示さなければならない立場にある。交渉団トップの交代は単なる人事ではなく、ウクライナ政治の刷新圧力と、戦時リーダーシップのあり方を問う試金石になっている。

ジュネーブから米国へ、和平の「設計図」はどこまで描けるか

今回の米国訪問は、ジュネーブでの協議で議論された論点を「迅速かつ実質的に」整理し、和平までのステップを定義することが任務だとゼレンスキー大統領は説明している。スイスでの事前協議には欧州の仲介役も加わっており、ウクライナと米国だけでなく、欧州の安全保障秩序も視野に入れた枠組み作りが続いている。

今後の焦点となるのは、ロシア軍の撤退範囲と時期、ウクライナへの安全保障保証の形、そして制裁や復興資金をめぐる取り扱いだ。これらは、前線の兵力配置やエネルギーインフラ防衛と密接に絡み合うため、単なる文書の条文ではなく、実行可能なスケジュールとして設計する必要がある。米国としても、欧州や世界の同盟国に説明がつく形で「紛争収束の筋書き」を描けるかが問われる。

ゼレンスキー大統領は、今回の協議の成果について週末にも代表団から報告を受けるとしている。しかし、どのような合意が形になったとしても、前線の兵士や被災地の住民が実感する「平穏な日常」の回復には時間がかかるだろう。交渉団トップの交代と米国との協議は、戦争の終わらせ方と、その負担を誰がどのような条件で引き受けるのかという、重い問いをウクライナ社会に突きつけている。