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静かな会議室で、紙束がめくられる音だけが続く。国連の予算を決める場で、何が削られ、何が守られるのか。国際人権サービス(ISHR)は、こうした非公開の駆け引きが人権の行方を左右してきたと警鐘を鳴らした。2025年10月22日に公表された新報告書は、中国とロシアが中心となる少数国が過去数年、人権関連活動の資金を狙い撃ちにしてきた実態を描き出す。国連改革と財政難が重なる今、予算という見えにくい領域で、人権の優先度が試されていると映る。
予算交渉の舞台裏で何が起きているのか
報告書は、国連総会第五委員会(いわゆる5C)と勧告機関の行政予算問題諮問委員会(ACABQ)に焦点を当てる。内部資料や関係者取材の分析から、少数の国が技術的議論を政治化し、人権事業の削減を狙う提案を繰り返してきたと記す。狙いは人権高等弁務官事務所(OHCHR)の中核機能や、個別国の深刻な侵害を調べる国連調査の予算に及ぶとされる。
提案はしばしば、手続き論や効率性を掲げて持ち込まれる。報告書は、G77を含む途上国グループで影響力を広げる中国の働きかけと、交渉で異議を強く唱えるロシアの役回りを描く。表での賛否が割れる一方、部屋の外では地道な根回しが進み、用語や査定の細部に人権予算を削る仕掛けが紛れ込む構図が浮かぶ。
それでも、現時点で確認されている範囲では、「特定の調査を狙い撃ちで外す」ような試みは最終的に退けられてきたとされる。ISHRのニューヨーク事務所長は、予算交渉が本来の目的から逸脱し、人権の説明責任を弱める道具にされていると強く批判した。数の論理だけでは決まらない、せめぎ合いの実像がにじむ。
広がる資金難と「UN80」の波紋
報告書は、政治の駆け引きに加え、資金繰りの悪化が人権の土台を揺らしていると指摘する。加盟国の拠出が満額・期限内に届かない状況が続き、資金が年末に偏って入る「遅延」も深刻化しているという。実際、2024年に拠出が年末直前に支払われた例があり、使い残しが翌年の与信として戻される仕組みが資金逼迫を助長したとされる。
人権分野の実質予算は2024年に13%、2025年上半期には27%縮んだとの推計が示される。国連全体の改革イニシアチブ「UN80」では、初期案の段階で人権予算の削減率が他分野より相対的に大きいと伝えられ、報告書は「効率化だけが独り歩きすれば、現場の保護能力が削がれる」と警戒する。数字だけでは測れない影響が各地に波及しているとみられる。
背景には、最大拠出国である米国の未払い・停止や、中国の遅延が重なる「流動性危機」があるとISHRは見る。人権は国連予算の7%未満という脆弱な基盤に立つ。小さな刈り込みでも執行の遅れや人員の空白を生み、調査や文書化、被害者参加の機会が目減りする。報告書は、この連鎖が制度の信頼を損なうリスクを強調する。
試される各国の姿勢とこれから
2025年10月3日時点で、拠出を満額支払った国は139か国、全体の72%にとどまったとされる。未納額は米国が約15億ドル、中国が約1億9200万ドル、ロシアが約7200万ドルに達するとの整理も示された。分担率は米国22%、中国20%で、二大拠出国の動向が資金繰りを大きく左右している現実がある。
ISHRは、予算の政争化を止めるための具体策も提案する。すべての加盟国に対し、拠出の満額・期限内支払いを促し、未納国への与信返還の一時停止、ACABQの改革、OHCHRへの任意拠出の拡充などを挙げる。国連改革「UN80」をめぐっては、人権部門を過度に削らず、各機関のマンデートを実行可能な水準で支えるべきだと訴える。
非公開の会議室で交わされる小さな修正は、現場の被害者の声に直結する。報告書の執筆に関わったアンジェリ・ダット氏やラファエル・ビアナ・ダビッド氏は、いま必要なのは「効率」よりも人権中心の改革だと強調する。資金の流れを透明にし、予算の文言に潜む細工を見逃さないこと。次の会計年度を待つのではなく、今日の支払いと説明責任から始めるべきだと映る。