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契約書に印が押され、潜水艦の設計図に新しい線が引かれた。防衛装備庁は2025年11月10日、水中発射型垂直発射装置の研究試作を川崎重工と随意契約(特定の相手と直接契約する方式)で結んだと明らかにした。金額は108億8941万7000円。海自が持たないVLSへの道が、実機研究の段に入った意味は大きい。
潜水艦の戦い方を変える装置
垂直誘導弾発射システム(VLS、発射筒を船体に縦配列する仕組み)は、潜水艦から複数のミサイルを短時間で連続発射できるのが強みだ。個別の魚雷発射管を使う方式に比べ、運用テンポを上げ、搭載数の拡張もしやすいとされる。射点を分散できれば、生残性の向上にもつながる。
一方で、発射モジュールと周辺機器のために船体容積が要る。艦は大型化し、静粛性や浮力配置、復原性まで設計の見直しが生じる。海上自衛隊の現行艦はVLSを持たず、魚雷発射管から対艦・対地兵器を運用してきたが、今回の研究はその前提を動かす。装置は艦そのものの作り方を変える。
政府が掲げるスタンド・オフ防衛能力(敵の脅威圏外から打撃する手段)の一角を潜水艦が担うなら、秘匿性と即応性を両立させる発射基盤が要る。潜航状態で即時に多方向へ撃てるVLSは、その役割に合致する。洋上の艦艇とは異なる冗長設計や安全余裕の積み増しも求められる。
研究と契約の道筋
装置の研究は年度当初の公示で始動している。まず研究試作(その1)が告知され、企画競争で要件の詰めが進んだ。続いて搭載用の耐圧殻(深海圧力に耐える主要外殻)についても研究試作の契約手続きが動いた。いずれも川崎重工が名を連ね、造船と機器統合を束ねる体制が輪郭を得た。
この日の随意契約は、研究を実機レベルへ押し上げる節目となる。対象は搭載艦の決定ではなく、発射装置そのものの成立性と安全余裕、整備性の検証だ。複合材や衝撃・減音構造の試験、指揮制御との連接評価、発射ガス処理や排水の流体解析など、装置側の要件を詰める局面に入った。
防衛省は関連経費を計上し、研究は段階的に拡張されてきた。艦内の配置検討、冷却・排気の経路、漂流物の吸い込み対策など、潜水艦特有の設計課題は多い。耐圧殻の開口補強や発射時の姿勢制御まで含め、模型試験と数値解析を往復する工程が続く。現場の試験設備も順次整えられる。
変わる船体、映るコンセプト
川崎重工は2023年12月に、次期潜水艦のコンセプト案を社の説明会で示した。艦中央の司令塔(セイル)位置や船体の膨らみ方に変化が描かれ、スタンド・オフ兵器の搭載を見据える姿が印象的だった。研究段階のイメージにすぎないが、装置と船型を一体で考える視点がはっきりと見える。
防衛装備庁も技術シンポジウムで、耐衝撃・音響ステルスを高める新構造や、従来にない船体形状の検討を掲げた。VLSは単なる追加箱ではなく、発射ガス処理や水流の乱れ、反射音の管理まで含めた艦全体の再設計を迫る。外観の小さな違いが、静粛性の余裕に直結する重いテーマである。
装備が実現すれば、潜水艦隊の任務配分も変わる。これまで主に情報収集や対艦・対潜に軸足を置いてきた運用に、遠方への対地打撃という選択肢が加わる。補給や訓練のサイクル、任務計画の作り方も、発射回数と再装填の制約を織り込む形へ移りそうだ。艦の役割はより幅広くなる。
設計室のペン先は、次の実証に向けて静かに進んでいる。