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米通商代表部（USTR）が2025年11月9日、中国の海運・物流・造船分野を対象とする301条調査の措置を1年間停止すると発表した。開始は11月10日14:01。発表直後、中国運輸省は米国と関係のある船舶への港湾使用料の徴収を同刻から1年間止めると表明した。対立の矛先はいったん収まり、交渉のテーブルへ視線が向いた。
足並みをそろえた一時停止
米側の停止は、海運・物流・造船を巡る中国の慣行に対し追加コストを課す米国の対抗措置を凍結する決定だ。効力は11月10日14:01から1年間続く。USTRは「調査で提起された問題について、301条に従って中国と交渉する」とし、停止と同時に協議フェーズへ重心を移した。
中国側の動きは早かった。運輸省は、米国と関係のある船舶に課してきた港湾使用料の徴収を、同日14:01から1年間停止すると発表した。徴収の一時停止は、米側の凍結と時刻まで一致し、現場のオペレーションに余計な混乱を生まない形で実施されたのが特徴だ。
中国商務省は今回の米国の措置を、先の経済・貿易協議で合意した事項の履行に向けた重要な一歩と評価したうえで、相互尊重と平等な協議に基づく対話の継続に意欲を示した。政治的な声明に留めず、具体の費用措置が同時に止まったことで、現実の海上輸送に直結する環境が整った。
301条と港湾料の仕組み
米通商法301条（不公正な貿易慣行に対し関税や料金などの対抗措置を発動できる規定）は、相手国の行為を調査し、是正を促す枠組みだ。海運・造船分野を対象とした今回の調査では、昨年来の公聴会や告示を経て料金案が段階的に示されてきたが、米国は11月10日から1年間の停止に踏み切った。
一方の中国は、米国の追加コストに対抗する形で、米国と関係のある船舶に「船舶特別港務費」を課す制度を整備していた。料金は段階的に引き上げ、同一船の年間徴収回数に上限を設ける設計だったが、今回の発表で徴収はまるごと1年間停止される。制度の枠は残しつつ、現場負担をゼロにする運用だ。
商務省は、合意事項の実施に向け米国と歩調を合わせる考えを示し、「相互尊重」と「平等な協議」を軸に意思疎通と対話を続ける姿勢を明確にした。米側も、301条の手続に沿って交渉を進める方針を打ち出しており、制度の論点をテーブルに載せる経路が双方で揃った。
現場に走るコストと心理
海運会社や荷主にとって、最も直接的なのは費用の一時的な軽減である。入出港のたびに加算される可能性があった新たなコストが1年間は発生しない。ばら積みやコンテナ、自動車船など主要船型で、航路や配船の再設計を急ぐ必要が薄れ、年明けのスペース確保や運賃見通しに余裕が生まれる。
ただし停止は期限付きだ。延長後の期限までに交渉でどこまで歩み寄れるかが、次の価格体系と投資判断を左右する。造船所の新造発注や港湾設備の増強といった長期案件は、規律の方向性が見えるまで慎重姿勢が続く可能性がある。短期の安堵と中期の様子見が同居する局面だ。
今回の同時停止は、対立が激化した年の終盤に差し込んだ小さな緩衝地帯とも映る。制度の「止め方」を揃えたことで、現場は日常運航を保ちながら、次の枠組みを待つ時間を得た。価格と規律、双方の均衡点を探る静かな調整が、海の向こう側でも淡々と進んでいく。
埠頭の動きはいつも通りだが、航路図の余白には、小さな余熱が残っている。
