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米国のバンス副大統領が米テレビで、ウクライナが求める長射程巡航ミサイル「トマホーク」入手の要請を検討中だと明かした。欧州に売却し、欧州がウクライナへ提供する構図だという。戦況の均衡と和平交渉の行方を同時に揺らす一手であり、米政権の支援方針の輪郭を映す動きでもある。発言は米国時間の番組出演直後、日本時間では2025年9月29日に伝わった。
発言の中身と決定プロセス
ワシントン発の報道によれば、バンス氏は米「FOXニュース・サンデー」で、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国に対しトマホークを欧州諸国へ売却するよう求め、欧州がそれをウクライナに供与するスキームを提示していると説明した。最終判断はトランプ大統領が下すとしたうえで、「欧州からの複数の要請を検討している」と述べた。番組での言葉は慎重で、即断ではなく「レビューの途上」にあることを強調している。米政権は過去に長射程兵器の提供を退けた局面もあったが、今回の発言はロシア側の硬直に対する不満と、戦争の人的被害の大きさを踏まえた方針見直しの余地をにじませる。欧州を経由する形での移転は、同盟内の負担分担を保ちながら抑止力を強化する折衷案でもある。米議会や欧州の国内政治にとっても「直接供与」より政治コストが低いという読みが働く余地がある。
バンス氏は同じ場面で、ロシアの侵攻がこのところ領土的な前進に乏しく、作戦は停滞しているとの見方を示した。現地ではミサイルとドローンの攻撃が続いており、ウクライナは迎撃能力と反撃余力の増強を急ぐ。米政権内では、制空権の構図や補給線の脆弱性を踏まえ、どの装備が抑止と交渉のレバーになるかを見極める作業が続いている。長射程火力の是非は、前線での劣勢緩和に直結する一方、供与の閾値をどこに置くかという外交的シグナルにもなる。今回の「欧州経由」の話法は、対露のエスカレーション管理と、ウクライナの防衛権の両立を探る手つきに見える。
トマホークという選択—能力とエスカレーションの境目
トマホークは米海軍の艦艇や潜水艦から発射される巡航ミサイルで、地形追随飛行で要地を精密打撃する。公開資料で示される射程はおおむね1600キロ級で、報道では2500キロとの表記もある。型式や運用条件で差が出ることを踏まえても、ウクライナが保有する射程帯を大きく超える可能性がある兵器であることは確かだ。艦発射という特性上、供与にあたっては発射プラットフォームの問題が浮かぶが、欧州側が保有する発射能力の活用や、運用・整備・標的情報の連携の設計次第で実戦投入のハードルは変わる。いずれにせよ、ロシア本土の軍事拠点や後方補給拠点に圧力をかけ得る打撃力は、戦略的な意味合いが大きい。
反面、こうした長射程の付与は、ロシアに「戦域の拡大」と受け止められるリスクを伴う。米政権が「最終判断は大統領」と明言し、段階的な表現にとどめたのは、まさにエスカレーションの管理のためだ。ウクライナ側は継戦の現実のなかで、エネルギー施設や司令部を狙った越境攻撃の選択肢を広げたい。一方で米欧は、抑止効果と外交的余地を両立させねばならない。日本にとっても無縁ではない。日本はスタンド・オフ防衛力の一環としてトマホークの導入準備を進め、海自隊員の教育訓練や艦の改修計画が動き出している。装備体系の議論は、安全保障環境と同盟調整の鏡であることを、今回のやり取りは示している。
戦況と和平シグナルの交錯
バンス氏の「停滞」認識の対極で、現地では市民への被害が続く。キーウでは無人機とミサイルの大規模攻撃が相次ぎ、死者が出た。被害は住宅や医療施設に及び、空襲警報が続く街の空には黒煙が立ちのぼった。ウクライナ空軍は多数の飛来体を迎撃したとしつつ、破片や命中による被害は避けきれない状況だ。前線での地上戦が膠着しても、後方を狙う空からの打撃の強さは戦争の体感を一段と苛烈にする。こうした現実が、長射程火力の必要性を後押しし、同時に交渉のテーブルを遠ざけもする。だからこそ米側のメッセージは二層だ。すなわち防衛力を底上げする支援と、ロシアに現実を受け入れ和平を模索するよう迫る政治的圧力である。
米政権の内外シグナルは、ウクライナの反撃余地を拡げつつ、ロシアに「得るものが乏しい」ことを悟らせる狙いに収れんする。長射程ミサイルの検討表明は、その圧力設計の一部にすぎない。供与の有無が即座に戦局を決めるわけではないが、補給線や司令系統への打撃可能性は、交渉の力学に跳ね返る。最終判断の行方は、欧州の負担分担を含む同盟の態勢と、ロシア側の出方の双方を測りながら定まるだろう。日本時間の2025年9月29日時点で確定しているのは、米側が要請を精査しているという事実と、被害が積み上がる現場の時間が止まらないという現実である。
