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記者たちの前に立った米司法省の担当者が、静かに起訴状の束を掲げた。2025年11月20日、同省は人工知能(AI)向けの米NVIDIA製半導体を違法に中国へ輸出した疑いで、中国人2人を含む4人を逮捕・起訴したと公表した。対象となったのは、対中輸出規制の下で厳しく管理されている高性能GPU(画像処理用半導体)で、輸出先を偽装し、タイやマレーシアを経由させることで当局の目をすり抜けようとしたとされる。
偽装会社と第三国経由、密輸のしくみ
起訴状によると、逮捕されたのは香港生まれの米国籍男性とアラバマ州在住の米国人、中国籍の2人の計4人で、いずれも米国内に居住していた。中心とされたホン・ニン・ホー被告らは、フロリダ州タンパに「ジャンフォード・リアルターLLC」という不動産会社名の法人を設立し、この名義で半導体を大量購入した。実際には不動産取引は行わず、表向きの業務とすることで、半導体の仕入れと輸出の実態を覆い隠していたとみられる。
4人は少なくとも2023年9月ごろから2025年11月まで共謀し、NVIDIAのGPUを中国企業向けに転売する計画を進めたとされる。米司法省や各国メディアによれば、2024年10月から2025年1月にかけて、高性能GPU「A100」約400個が2回に分けてマレーシア経由で中国に渡ったという。その後も、さらに性能の高い「H100」「H200」を搭載したヒューレット・パッカード・エンタープライズ製スーパーコンピューター10台と、単体のH200が50個輸出される寸前だったが、これは当局に阻止された。
容疑者らは、最終仕向地が中国であることを隠すため、書類上はタイやマレーシアの企業宛てと装い、虚偽の契約書や請求書を作成していたとされる。中国側からは少なくとも389万ドル(約6億1000万円)の送金があったといい、資金は偽装会社や関係企業の口座に振り込まれていた。4人は輸出管理改革法(軍事転用を防ぐ米国の法律)違反の共謀や密輸、マネーロンダリングなどで起訴されており、有罪となれば1件あたり最長20年の禁錮刑が科され得るが、現時点では無罪の推定が働く。
競争激化するAIと揺れる輸出規制
米商務省は2022年10月以降、軍事転用が懸念される先端AI半導体の対中輸出に厳しいライセンス制を導入した。とりわけNVIDIAのA100やH100などは、大規模言語モデルの学習や高度な監視システム、兵器のシミュレーションにも使えるとされ、事実上の禁輸対象になっている。司法省は、中国政府は2030年までにAI分野で世界のトップに立つことを目標とし、そのために米国の最先端技術を入手しようとしていると指摘し、今回の事件もそうした動きの一端だと位置づけた。
一方で、今回の事件は孤立した例ではない。2025年夏には、別の中国人らがシンガポールやマレーシアを経由してH100を違法輸出した疑いで訴追されており、東南アジアをハブにした「迂回ルート」は以前から問題視されてきた。米メディアは、規制の網をすり抜けたNVIDIA製AI半導体が相当な額で取引されていると伝えており、合法的な輸出が細る一方で、仲介業者やブローカーがブラックマーケットを広げている構図が浮かぶ。
こうした抜け道を塞ぐため、米議会ではチップの所在確認や再販売時の報告義務を企業に課す「チップ・セキュリティ法案」が検討されている。実現すれば、半導体1個ごとに移動履歴を追跡する仕組みが導入される可能性がある一方、コスト増やプライバシーへの影響を懸念する声もある。AIを巡る競争が激しさを増すなか、目には見えない小さなチップの行方をどう管理するのかという課題が、静かに重みを増している。
