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トランプ米政権が、世界の在外公館にアフガニスタン国籍者へのビザ審査を止めるよう指示した。国務省が各公館に送った通達に基づき、移民・非移民を問わず新規の査証申請は原則として拒否される。20年におよぶ駐留の中で米軍や政府に協力した人々を受け入れてきた特別移民制度も、事実上の停止に追い込まれた形だ。米国は安全保障上の不安と、アフガン協力者への責任をどう両立させるのか――それが本稿の問いである。
突然閉ざされたビザ、取り残される協力者たち
今回の通達は、11月下旬にワシントンの国務省が世界中の大使館・総領事館へ送ったものとロイター通信は伝えている。発効は即日とされ、アフガニスタンのパスポートを持つ人は、観光や留学などの短期ビザも含めて審査の入り口で門前払いとなる。これまで米軍の通訳や現地職員として働いた人が対象だった特別移民ビザの申請も、同じ枠組みで止まることになる。
こうした制度を通じて、2021年以降におよそ20万人のアフガン人が米国に移住した一方で、国外で順番を待つ申請者は26万人超にのぼると支援団体は推計してきた。彼らの多くは家族を連れ、第三国での長い待機生活に耐えながらビザ発給を待っている。中には旧政権や米軍に協力したことを理由にタリバンから狙われ、身を潜める日々を送る人も少なくない。
アフガン協力者向け特別移民ビザは、本来は「米国と共に働いた人を見捨てない」という約束を制度化したものだ。類似の枠組みは英国やカナダなど他の旧駐留国にもあり、危険にさらされた元通訳らを受け入れている。今回の一斉停止は、その約束が米国側の判断でいつでも覆り得ることを示し、まだ順番を待つ人々にとっては出口の灯が突然消えたように映っている。
首都の銃撃事件と国内政治、決定の引き金
厳しい措置の背景には、11月26日のホワイトハウス近くで起きた衝撃的な銃撃事件がある。この事件を受け、トランプ大統領は治安対策を理由にアフガン人の移民・ビザ発給の全面的な見直しを指示し、今回の通達へとつながった。
トランプ氏は今年1月の政権復帰後、すでに不法入国者の取り締まり強化やメキシコ国境での庇護申請制限などを次々と打ち出している。ロイターや米メディアの報道では、連邦政府の移民当局は今週、庇護申請に対する判断も一時停止し、審査基準の再検証に入ったとされる。これまで「不法移民」対策が主だった矛先は、今回の決定でアフガン人という特定の国籍を持つ合法申請者にも向けられた。
一方、ワシントン・ポスト紙は、銃撃の容疑者とされる男性が2021年の入国前後に複数回のテロ対策審査や生体認証チェックを受けていたと報じている。従来の審査がむしろ厳格だったにもかかわらず、事件を機に国籍単位でビザを止めることが、本当に安全保障上のリスク低減につながるのか。米国内では、治安への不安と政治的なパフォーマンスが入り交じった決定ではないかという議論も出始めている。
約束を翻す代償、揺らぐ信頼と国際社会への波紋
アフガン協力者の避難を支えてきたボランティア団体の代表は、ロイターの取材に対し、今回の通達を「アフガン人を米国から締め出す長期戦略の一環だ」とみている。数カ月前から審査の遅れや追加書類の要求が相次ぎ、事実上の締め付けが強まっていたとの指摘もある。今回の明確な「停止」は、その流れに終止符ではなく、公式なお墨付きを与えたようにも見える。
影響は、個々の申請者にとどまらない。アフガニスタンで米軍と共に活動した人々の多くは、NATO加盟国や日本を含む連合国の作戦にも関わってきた。主導国である米国が一方的に受け入れを止めれば、「最後は見捨てられるのではないか」という不信は他国の現地協力者にも広がりかねない。将来、別の紛争地で協力者を得ようとしたとき、そのしこりが米軍や同盟国の安全保障行動を縛る可能性がある。
一方で、カナダや欧州の一部の国は、アフガン元協力者の受け入れ枠を維持しつつ審査を続けている。米国だけが扉を閉じれば、負担の一部は同盟国や国連機関へ押し寄せる。日本でもアフガン避難者の受け入れ拡大が議論される中、「協力者への責任をどこまで引き受けるか」という問いは他人事ではない。安全の確保と約束の履行、そのコストを誰がどのように負担するのか――今回の決定は、その難しい計算を世界に突きつけている。
