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米国政府は11日、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を狙い撃ちにした新たな制裁を発表した。大統領夫人の親族3人に加え、同国産原油を運ぶ海運会社6社と原油タンカー6隻を制裁対象に指定し、前日にはベネズエラ沖で石油タンカーを拿捕したことも明らかにした。制裁と拿捕の組み合わせは、ベネズエラ産原油を運ぶ海運ビジネス全体にどのような重圧をかけるのか。
タンカー制裁が突きつける海運リスク
米財務省の発表によると、制裁対象となったのはマドゥロ大統領の妻シリア・フロレス氏のおい3人と、ベネズエラ産原油を輸送してきた海運会社6社と関連タンカー6隻だ。米側は、これらの船舶が位置情報の隠蔽など「欺瞞的で危険な海運慣行」に関与し、マドゥロ政権の「腐敗した麻薬テロ政権」に資金を供給し続けていると非難し、米国内資産の凍結や米企業との取引禁止を命じた。
米国は近年、制裁対象の原油を運ぶ「ダークフリート」と呼ばれる影の船団に照準を合わせている。自動船舶識別装置の停止や便宜置籍国への再登録、洋上での積み替えといった手法で出所を隠す輸送は、保険会社や港湾当局にとっても大きなリスクだ。今回のように具体的な船名と事業者が名指しされることで、制裁違反に巻き込まれることを恐れ、ベネズエラ原油の輸送から手を引く船主が増える可能性がある。
ベネズエラの国営石油会社PDVSAは、既に2019年以降の米制裁で主要な国際石油メジャーとの取引を失い、限られた海運会社とアジア向けの輸出に依存してきた。そこにさらにタンカーの制裁や拿捕のリスクが重なれば、積み出し港で原油が滞留し、割引価格での売却や現金収入の減少を強いられる。制裁の矛先は、政権中枢とともに、輸送を担う現場の事業者にも向けられている。
軍事作戦と制裁が絡み合う圧力の構図
今回の制裁発表に先立ち、トランプ大統領は10日、ベネズエラ沖で米軍が制裁対象の石油タンカーを拿捕したと公表した。米軍と沿岸警備隊はカリブ海南部で大規模な麻薬・制裁違反対策の作戦を展開しており、拿捕はその一環だと説明している。ホワイトハウスは、マドゥロ政権が麻薬取引と不正な石油輸出で米国社会を脅かしていると主張し、軍事力の誇示を通じて出港前の段階から輸送を思いとどまらせる狙いもにじませる。
これに対しマドゥロ政権は、タンカー拿捕を「海賊行為」だと激しく非難し、ロシアなど友好国との連携を強めている。制裁と軍事作戦が並行する状況では、現場の誤認や偶発的な衝突が深刻な外交危機に発展する懸念もある。国際法上、国籍を偽装した「無国籍船」などには臨検が認められるが、実際の海上でどこまで武力行使を正当化できるかは、各国の解釈が分かれる部分だ。
2019年のPDVSA制裁以降、米国はベネズエラの石油収入を断つことを通じて政権交代を促そうとしてきたが、長期化する経済危機の負担は市民に重くのしかかっている。今回のように親族や海運企業まで射程に入れる措置が続けば、政権側の締め付けが強まる一方で、交渉による出口を探る声も国際社会で根強い。制裁と軍事圧力に頼る現在の路線が、ベネズエラの将来をどこへ導くのかという問いは、なお答えが見えていない。
参考・出典
- US issues fresh sanctions targeting Maduro's family, Venezuela-linked oil tankers
- US preparing to seize more tankers off Venezuela's coast after first ship taken, sources say
- US sanctions Venezuelan President Maduro's 3 nephews as pressure campaign ratchets up
- Trump expands Venezuela sanctions as Maduro decries new ‘era of piracy’
