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米国が再び北米貿易の枠組みを揺さぶっている。米政治サイト「ポリティコ」のポッドキャストで、グリア米通商代表部（USTR）代表は、トランプ米大統領が来年、米国・メキシコ・カナダ協定（USMCA）からの離脱を決断する可能性に触れた。協定に設けられた見直し期間は、修正や再交渉だけでなく、必要と判断すれば離脱するための仕組みでもあると説明し、カナダとメキシコと別々に協定を結び直す案にも言及したという。2026年に控える初回レビューを前に、こうした発言は、北米の企業と働く人々にどのような不確実性をもたらすのか。
工場と農場に走る「ルールが変わるかもしれない」不安
USMCAは、2020年にNAFTAを置き換えて発効した協定であり、自動車や農産品をはじめとするサプライチェーンを3カ国で結びつけている。関税だけでなく、原産地規則や労働基準など細かな条件を満たすことが前提となるため、多くの企業が長期投資や雇用計画をこのルールに合わせて組み立ててきた。そこに、協定の存続そのものを揺さぶる可能性が示されれば、北米に拠点を置く工場や農場、物流事業者にとっては、「前提条件が変わるかもしれない」という懸念につながる。
ロイター通信などの報道によれば、USMCAには発効から6年目となる2026年に3カ国で協定の運用を共同で見直す仕組みが組み込まれている。カナダやメキシコは当初、技術的な調整にとどまる手続きとみていたが、トランプ氏はこのレビューをてこに関税引き上げや協定改定を迫る可能性をにおわせている。過去のNAFTA再交渉時には、先行き不透明感から投資が抑制されたと指摘するシンクタンクの分析もあり、今回も同様の「様子見」が広がれば、中小企業や現場の雇用にじわじわと影を落としかねない。
分割協定という選択肢と、正式レビューの行方
グリア代表はポッドキャストで、トランプ氏が「優れた合意」以外は受け入れないとの姿勢だと強調し、USMCAの見直し条項は、場合によっては協定から離脱するための安全弁でもあると説明したとされる。さらに、カナダとメキシコと個別に交渉し、現在の3カ国協定を2本の二国間協定に分ける構想にも触れ、こうした選択肢を今週、大統領と協議したと明かした。政策研究機関の分析では、USMCAが維持されない場合、二国間協定に移行するシナリオも検討されており、今回の発言はその一案を政権中枢が具体的にテーブルに載せ始めたことを示す。
一方で、公式なプロセスは淡々と進んでいる。USTRは9月以降、2026年の共同レビューに向けて協定運用に関する意見募集や公聴会を開始し、メキシコ政府も国内のコンサルテーション手続きを始めた。各国政府は現時点でグリア氏の発言に直接のコメントを出していないが、協定の将来像をめぐるシナリオは、単純な更新から条件付き延長、年次レビューへの移行、さらには離脱まで幅広く語られている。どの道筋が選ばれるにせよ、そのコストとリスクを最初に受け止めるのは、国境をまたぐ生産や貿易に日々かかわる現場の人々であり、その声をどう政策に反映させるかが今後の焦点となる。
