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秋のワシントンで会見場の空気が一段と張りつめた。米通商代表部（USTR）のグリア代表が中国への警告を発したのは2025年10月21日 07:38のことである。中国が韓国の造船大手ハンファオーシャンの米国関連子会社を標的とした直後で、米中の海事分野を巡る綱引きは新たな局面に入ったと映る。造船・物流の主導権を巡るせめぎ合いは、航路や投資の意思決定に静かに影を落とし始めている。
米の警告が射す先
グリア代表は、中国が「重要産業で支配的地位を狙う」動きに対し、威圧では米国の再建は止まらないと強調した。発言は声明形式で出され、対中の追加措置の具体像は伏せられたが、足元の緊張を受けた牽制であることは明らかだ。米側は近年、造船・海運を「経済安全保障」の土台と位置づけ、能力の底上げを急ぐ構えを見せている。
発言の背景には、米国が2025年4月17日に公表した対中301条措置がある。同措置は、中国の海事・物流・造船を対象に段階的な対応を定め、港湾関連機器への関税提案も含む内容であった。適用は移行期間を置く設計で、輸出入や港湾運営への衝撃を緩和しつつ、米国内の投資や建造能力に「合図」を送る狙いがにじむ。
声明は、制裁合戦の「次の一手」を示すものではない。ただ、米側が中国の出方を見極めつつ、同盟・友好国の民間投資を巻き込みながら造船基盤を再構築する方針を崩していない事実を改めて印象づけた。現時点で確認されている範囲では、米国は抑止と実効の両輪で応じる姿勢とみられる。
中国の反制とその中身
中国は2025年10月14日 12:01に、ハンファオーシャンの米国関連5社を反制裁リストに加える決定を発表した。対象はHanwha Shipping LLC、Hanwha Philly Shipyard Inc.、Hanwha Ocean USA International LLC、Hanwha Shipping Holdings LLC、HS USA Holdings Corp.の5社である。国内の組織や個人に対し、これら企業との取引や協力を禁じる内容となった。
決定文は、米国の対中301条措置に対抗する位置づけを明記し、同社の米関係会社が米政府の関連調査を支援したことを問題視した。法的根拠としては、反外国制裁法やその実施規定を列挙し、国家の主権・安全・発展利益を侵害したと断じている。対象企業名を一社ずつ列記する形式は、中国が行為を特定して圧力の焦点を絞る手法を採ったことを示す。
中国の一手は、米国の制度的な海事対抗策に、企業単位の実務的な摩擦を重ねる形になった。サプライヤーや金融機関のコンプライアンスは難度を増し、契約条項の見直しや代替スキームの検討が広がっているとみられる。制裁指定そのものは限定的でも、波紋は日々の商取引や資金の流れに滲むように浸透していく。
造船再建の思惑が交錯する
米国は世界有数の海軍力を持ちながら、商船の建造・更新では苦戦が続いてきた。4月のUSTR決定は、費用賦課や装置関税の提案を通じ、港湾から海上輸送の生態系にまでテコ入れする設計である。移行期間を設けつつ段階的に効かせる構図は、急ブレーキではなく、投資と受注の回帰を促す「信号機」の役割を期待していると映る。
その矢先に浮上したのが、ハンファオーシャン関連の制裁であった。米国が造船再建で民間投資の呼び込みを掲げる中、中国が米関連子会社を狙い撃ちにしたことで、現場の意思決定は一段と神経質になっている。米側が「威圧には屈しない」と強調した背景には、投資の腰折れを避けたい思惑が透ける。
海運・造船は、サプライチェーンの静脈である。航路や寄港の選択、保険の手当て、支払い網の整備など、どれも地味だが止まれば血の巡りが悪くなる。米中双方が手札を増やすにつれ、企業は法域ごとにコンプライアンスの「二重底」を用意し、政治リスクの価格を積み上げる局面が続くとみられる。緊張の行方は、港の岸壁よりも、会議室の判断にこそ現れる。
