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薄暗い滑走路の向こうで、出発案内のモニターに「delayed」の文字が並んだ。リトアニアの首都ビリニュスの空で、ベラルーシ側から流れ込んだとされる密輸用の気球が確認され、空港は10月27日未明にかけて相次ぎ閉鎖された。政府は空からの密輸に強硬策で臨む構えを示し、域内の安全保障と民間航空の脆弱さが改めて問われている。
空に漂う気球が止めた空港の朝
運航の停止は、2025年10月27日 04:42に始まり、同日11:30に空域が再開された。ビリニュス空港の説明によれば、原因は空港方向へ流れてきた複数の気球の確認で、当局は安全確保のため離着陸を止めたとされる。夜明け前の判断が、朝の動線をじわりと詰まらせた光景が浮かぶ。
影響は広範に及んだ。到着便と出発便の双方で合計47便に乱れが出て、7,000人超の乗客が足止めとなった。内訳は欠航13便、他空港へのダイバート14便、遅延20便である。乗務員や機材のやり繰りの遅れも重なり、再開後もしばらくは遅延が続く可能性があると空港側は伝えた。
この夜の混乱は、近くで見れば運航管理上の危機対応であり、遠くで見れば国境をまたぐ違法行為が空のインフラを直撃した出来事でもある。ドローンではなく、安価で追跡が難しい気球が交通を止めたという事実は、脅威の「低コスト化」が現実の負荷に直結することを物語る。
政府は「ハイブリッド攻撃」とみる強硬策へ
27日、政府は繰り返される気球の侵入を「ハイブリッド攻撃」との問題意識で捉え、撃墜を含む強硬策に踏み込む方針を示したと一部報道が伝えた。密輸組織によるたばこの越境搬入が背景にあるとの見立てで、民間航空や国境管理への妨害を断ち切る狙いがにじむ。
国境検問所の運用についても、外交関係者などの通行を除いて厳格化する方針に言及があったとみられる。北大西洋条約の第4条に基づく安全保障協議の発動可能性にも触れたとされ、単発の治安事案ではなく、同盟全体の警戒水準を引き上げる引き金になりうると映る。
他方、こうした評価や措置の詳細は今後の公式発表で確定していく段階にある。現時点で確認されている範囲では、空港の運航停止とその影響は事実として裏付けがある一方、撃墜の運用基準や国境措置の範囲は詰めの作業が続くとみられる。安全確保と国際法順守の両立が鍵になる。
欧州の脅威認識と空の守りをどう重ねるか
欧州委員会は以前から、ベラルーシやロシアに関連するハイブリッド脅威に対し、「容認しない」立場を明確にしてきた。2024年には外部境界の警備能力を強化するための資金拠出を決め、バルト海沿岸を含む域外国境での監視や対処能力を底上げする方針を示している。
今回、ビリニュスの空で露わになったのは、軍事でもサイバーでもない「低速・低高度・低コスト」の脅威への脆弱性である。空港という生活インフラが標的になれば、数時間の停止でも数千人規模の足を奪う。欧州東部での警戒強化や対小型無人飛行物体の防御整備を急ぐ必要があると映る。
実効性のある抑止には、探知・識別から無力化、残骸回収までの一連の運用を、警察や国境警備、空港会社、軍が共通手順で束ねることが欠かせない。撃墜方針に踏み込むのであれば、領空管理と安全確保、そして証拠保全をどのように両立させるか。地域と同盟の連携に、次の解が求められている。
