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警察官がスタジアム前の柵を動かす音が、夕方の上海スタジアムに乾いた金属音を響かせた。2025年11月26日夜、アジア・チャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)1次リーグでヴィッセル神戸が上海申花と対戦したこの一戦では、日本のクラブを乗せたバスが到着するたび、黒い制服の列が素早く動き、サポーターを囲むように通路をつくった。台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁で日中関係が冷え込むなか、在上海日本総領事館は在留邦人に注意を促し、サッカーの試合は政治の緊張を映す舞台にもなっていた。
ゴールと歓声、その周囲に広がった“空白”
試合は、序盤こそホームの上海申花が押し込む展開だったが、前半31分に局面が変わった。右サイドから佐々木大樹が抜け出して折り返し、井手口陽介が押し込んだ一撃は一度オフサイドと判定されたものの、ビデオ・アシスタント・レフェリーの検証で得点に覆り、敵地の一角だけが大きく沸いた。さらに39分にはショートコーナーからのクロスに山川哲史が頭で合わせて追加点。後半には権田修一が相手のPKを止め、神戸は2−0で完封勝ちした。これで1次リーグは4勝1敗、勝ち点12で東地区首位をしっかりと維持している。
スコアだけ見れば快勝だが、スタジアムの光景は独特だった。神戸サポーター約120人が陣取ったゴール裏の両側は大きく空席となり、その周囲には多数の警備員が配置された。中国側の観客席との間には人の壁ともいえる警備ラインが築かれ、応援の声は隔てられた空間を越えて届いていた。日本のクラブ同士が集う通常のJリーグとは違い、ACLEはアジア各国のクラブが争う舞台であり、今回はその熱気の周りを、日中関係の緊張を意識した安全確保の仕組みが静かに取り囲んでいた。
政治の火花と、スタンドでの「距離感」
今回の厳重な警備の背景には、ピッチ外で強まった火花がある。就任間もない高市首相が国会で、台湾への武力攻撃が日本の存立を脅かす事態になれば、自衛隊による武力行使を含む対応もあり得ると述べたことに、中国側が強く反発した。中国外務省の報道官や各国の中国大使館は、いわゆる「狼戦士(ウルフ・ウォリアー)」と呼ばれる強硬な発信を再び強め、日本の軍事的な姿勢を批判し、対抗措置や日本への渡航に対する警戒を示唆している。そうした緊張の空気のなかで行われた上海での一戦は、単なるクラブ同士の対戦でありながら、両国世論の視線を意識せざるを得ない場になった。
在上海日本総領事館は事前に在留邦人へメールなどで注意喚起を行い、試合会場周辺では人混みを避け、現地の人々との不要なトラブルを招かないよう呼びかけた。当日は領事館職員もスタンドに足を運び、試合後は日本人サポーターが警備員に囲まれてバスに乗り込み、まとまって退場していく流れが整えられたという。大きな混乱は伝えられておらず、90分間の勝利とともに「何事もなく終わること」自体が、現地の邦人や関係者にとって安堵すべき結果となった。ただ、観客席に設けられた広い緩衝地帯は、政治とスポーツの距離がなお近いことを物語るように、夜のスタジアムにぽっかりと残っていた。
