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動画共有大手YouTubeが、議会占拠事件後のアカウント停止を巡る訴訟で、トランプ米大統領側に2450万ドル（約36億円）を支払うことで和解した。日本時間2025年9月30日に法廷書面で明らかになり、主要SNS各社を相手取った一連の訴えは区切りを迎える。巨大プラットフォームの統治と政治的言論の接点を問い直す節目となる。
和解の中身とお金の行き先
和解額は2450万ドル。うち2200万ドルはナショナル・モール信託への拠出として計上され、ホワイトハウスの舞踏会場整備に関連する事業に充てられると法廷書面は記す。残りは米保守団体ACUや作家ナオミ・ウルフ氏ら共同原告に割り振られる。救済の形を金銭と公共プロジェクトで組み合わせる構図が際立つ。
YouTubeは違法行為の認定や製品・ポリシーの変更には応じていない。アカウントは停止中も閲覧可能で、投稿機能の制限が中心だった。その後、2023年に利用再開が許可され、動画投稿が順次戻った。今回の和解は当面の実務に影響を及ぼさず、運用判断の裁量は維持されたままである。
今回の合意は、2025年10月6日に予定された審理を前に示された。担当はオークランドの連邦地裁で、訴訟は実務的な整理を残しつつ終盤に入った。主要な争点は、政治的言論の扱いから救済の在り方へと比重が移り、残る論点の絞り込みが進む。裁判所の負担を抑えつつ、当事者の意地の張り合いを避けた形だ。
なぜ停止は起き、争いは広がったのか
発端は2021年1月の連邦議会占拠事件だ。暴力の拡大を防ぐとして、主要プラットフォームは当時のトランプ氏の投稿機能を止めた。YouTubeは「重大な暴力リスク」のポリシー発動を根拠とし、違反再発の監視を続けた。表現の自由と公共の安全をどう両立させるか、その線引きが最初の争点になった。
トランプ氏は同年夏、MetaとTwitter、Googleを相手取り集団性を伴う訴訟を提起した。規制法の適用や私企業の判断範囲を巡って論戦が続き、移送先のカリフォルニアで審理が進んだ。各社の執行担当や元幹部の対応も、訴状や陳述の中で細かく問われた。政治とテックの緊張が法廷の外にも波紋を広げた。
今年前半、Metaが2500万ドル、X (旧Twitter）が約1000万ドルを支払う形でそれぞれ和解に至った。金額は大きいが、各社は方針変更には踏み込まず、政治的圧力との距離感を保つ姿勢を強調した。今回の決着で主要SNS各社すべてが収束へ向かい、訴訟戦略の焦点は勝敗から再発防止策の設計へと移る。
見えてきた論点—プラットフォームは何を学んだか
今回の一連の和解は、巨大プラットフォームの「安全」と「開放」の針路に現実的な落とし所が生まれつつあることを示す。裁判で全面勝訴を狙うより、社会的コストを抑えて早期収束を図る判断が優勢になった。政治的分断が深い中、合意の設計は慈善拠出を組み合わせる仕立てとなり、対立の熱量を少し下げる効果を狙った形だ。
一方で、停止判断の透明性や説明責任は道半ばだ。自動検知と人のレビューの比率、例外適用の範囲、緊急時の判断権限など、運用の細部は多くの疑問を残す。再発リスクがある局面で、どの言葉が危険の引き金になるかを巡る評価基準も、いまだ共有されていない。教訓が現場の判断手順に落ちるまでには距離がある。
ユーザー側にとっては、異議申し立ての手続きや救済の選択肢が実際に機能するかが鍵となる。アカウントの段階的制限や時限付きの措置、データの持ち運びなど、負担の小さい是正策を実装すれば、対立は和らぐ。今回の決着は、その設計を再点検する機会となる。政治とテックが衝突するたびに問われるのは、自由の担保と安全の確保を同時に満たす具体策である。
