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ゼレンスキー大統領が2025年11月16日、国営エネルギー企業の経営陣を入れ替え、財務の徹底監査とともに「抜本的な改革」に踏み出すと表明した。ロシアの攻撃で停電が続く最中、汚職疑惑を受けて12日に法相とエネルギー相が辞任した直後の発表だ。信頼回復と電力の安定供給を同時に進める構えを示した。
政権の一手は「経営の総入れ替え」から
大統領は、主要な国有エネルギー企業の財務と調達の実態を洗い直し、経営層を交代させる方針を掲げた。国営原子力企業エネルゴアトム（原発の運営を担う企業）では、監督委員会の再編を急ぐ。政府は監督機能の立て直しに着手し、現場の意思決定を滞らせない運用を目指す。
水力発電会社や主要ガス運営会社も対象に含め、取締役級の人事と外部監査を並行させる構えだ。課題は、戦時下で止められない設備保全と、汚職摘発・再発防止の両立にある。発注や支払いのプロセスを共通化し、例外運用を減らすことが骨格になるとみられる。
大統領は、関係省庁に法執行機関との情報共有を継続するよう指示した。調達記録や資金フローの追跡を強め、告発案件と監査結果を相互に参照する狙いだ。捜査と行政の接点を明確にし、政治的介入の疑念を避けることが、改革の信頼性を左右する。
汚職疑惑の輪郭
発端は、エネルギー部門での不正が疑われる大規模案件だ。捜査当局は、ゼレンスキー氏の旧知の実業家ティムール・ミンディチが約1億ドル規模のキックバック網を仕切ったとみている。大統領本人の関与は示されていないが、長年の近さが厳しい視線を集めている。
2025年11月12日には、法相とエネルギー相が相次いで職を降りた。国民の怒りが高まるなか、内閣は捜査への協力と説明責任を優先する姿勢を示した。現職閣僚の交代は、捜査の独立性を保つとともに、政権のリスク管理の意思を示すシグナルでもある。
国家汚職対策局（NABU、政府高官らの汚職を捜査する機関）は、録音資料や強制捜査をもとに複数の関係者を訴追した。政府はエネルゴアトムの監督委員会をいったん解散し、統治の枠組み自体を再設計する段取りに入った。制度の継ぎ目に不正が生まれた反省を、組織設計で埋めにいく流れだ。
停電下の社会が受け止める重さ
ロシアの攻撃で送配電設備の損傷が続き、各地で計画停電が常態化している。危機下での汚職疑惑は、電力料金や復旧の遅れに直結する不信を招く。だからこそ、調達の透明化と企業統治の実効性は、日々の明かりに直結する政策課題になった。
改革の要は、意思決定の速さと監視の厳しさを同時に高める設計だ。監督委員会の権限と責務を明確化し、入札・契約のデータ公開を広げれば、現場の裁量を残しつつ外部の目を入れられる。冬場の需給に間に合う運用ルールの整備が鍵になる。
捜査の行方と人事の刷新は、投資や国際支援の信頼にも波及する。政治的な対立に発展させず、実務の修復に力点を置けるか。改革は派手さよりも、支払い1件、工事1本の積み重ねで測られるはずだ。
暗がりの時間が少しでも短くなるよう、改革の実装が静かに進む景色を待ちたい。
