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複数の誘導弾が空で役割を分け合う運用像が、来年度から現実味を帯びる。防衛省は対艦ミサイルの弾頭にAI(人工知能)を搭載し、飛行中に相互通信して最適な進路と手段を選ぶ制御システムの研究に踏み出す。長射程化が進むスタンド・オフ・ミサイルの運用を更新し、抑止力の底上げにつなげる狙いだ。
複数弾が協調する新運用
現行の誘導は地上から個々の弾を操り、終末段階で弾頭のレーダーが目標を識別して命中させる手順が中心だ。新たな構想は、複数の弾が飛行中に互いの状況を共有し、その場で役割を組み替える。先行弾が偵察に比重を置けば、後続弾は迎撃網を避ける経路へ離脱する。おとり(デコイ)や電波妨害装置とも連携し、全体を一つの編隊として扱う設計である。
スタンド・オフ・ミサイルは射程が長く、目標までの飛行が長時間に及ぶ。相手はその間に回避機動や迎撃の準備を進めるため、固定した計画だけでは脆さが残る。飛行中の情報更新に応じ、隊形や高度、突入角を滑らかに変える。通信が途切れた場合は弾頭が保持する最新情報で判断し、復帰後は隊全体の最適化に再合流する設計思想だ。
防衛白書は、脅威圏外からの重層的な打撃と、目標情報や指揮統制の整備を進める方針を示している。AI協調はその延長線上にあるアプローチで、個々の性能を引き上げるより、複数の弾を束ねて効果を増幅する考え方だ。発射母体の多様化や衛星コンステレーションの整備と相まって、運用の幅を広げていく。
AIが担う制御の仕組み
核となるのは、自律分散の意思決定である。AIは各弾頭に搭載され、燃料残量、迎撃リスク、天候、目標の移動傾向などを評価して、秒単位で経路を再計算する。隊内では役割を固定しない。ある弾が迎撃を引きつければ、別の弾が突入軸を取りにいく。状況に応じて役割が滑るように移るため、事前計画に縛られない柔軟性が生まれる。
電子戦との協働も想定する。電波妨害装置が敵のレーダーを乱して注意を引き、デコイが虚像を示す間に主弾が回避経路を確保する。通信は抗妨害性を高めつつ、必要最小限のメッセージで合意形成を図る。全データを集約するのではなく、各弾が要約した指標を交換するため、通信断に強く遅延にも耐える。
安全面では人の関与を前提にする。AIは候補解を提示し、オペレーターの事前設定や禁止領域を越えない範囲で自律する。異常時は単独行動を停止し、フェイルセーフ経路へ移る。装備品にAIを載せる際のガイドラインに沿い、学習データの偏りや誤作動の評価、追跡可能性の確保など、開発段階からの審査が重視される。
狙いは抑止力の底上げ
長射程化は安全圏から対処できる利点をもたらす一方、時間を与える弱点も抱える。そこで、到達前の長い時間帯を「運用の余白」と捉え、敵の迎撃態勢に沿って構図を組み替える。結果として、同じ弾数でも到達確率を高めやすい。脅威圏外からの重層的な打撃という発想を、運用の巧拙で支える狙いだ。
費用対効果の観点でも意味がある。高価な弾をただ追加するのではなく、持ち札の組み合わせを磨く。デコイや妨害を織り混ぜ、相手の迎撃資源を分散させれば、投入弾数の最適化が図れる。限られた予算と生産能力の中で持続的に構えるためには、制御の賢さを装備の力に変換する工夫が欠かせない。
抑止は能力と意思の見せ方で形が変わる。協調運用が定着すれば、相手は迎撃の計画を単純化できなくなる。対応の難しさが認識として広がれば、実際に使用しなくても効果が生まれる。攻撃の兆候に対し遠方から多様な経路で対処できることは、誤算の抑制にも寄与するはずだ。
残る論点とスケジュール
来年度の概算要求に検証費を盛り込み、数年かけて技術成熟度や費用対効果を見極める段取りが示されている。成果が積み上がれば、量産弾や発射母体の拡充と歩調を合わせて実装が進む見取り図だ。試験はシミュレーションと実射を組み合わせ、環境の変動や複数目標下での安定性を重点に据える。
一方で、通信の抗妨害性、サイバー防御、誤識別の低減、責任の所在など詰める論点は多い。国際的な運用ルールや同盟運用との整合、訓練体系への落とし込みも欠かせない。防衛白書が進める指揮統制や目標情報の整備は、AI協調の基盤になる。制度と技術の歩幅をそろえることが、実効性を左右する。
海上の射程線をめぐる静かな競争で、制御の工夫が次の一手になる。
