本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。[続きを表示]ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
搭乗口へ向かおうと歩き出した女性は、突然係官に呼び止められた。ロンドン発日本行きの途中、中国・上海浦東国際空港に降り立ったインド出身の会社員だ。出生地が「アルナチャルプラデシュ」と記されたインドのパスポートをめぐり、予定3時間の乗り継ぎは18時間の足止めに変わった。国境線をめぐる長年の対立が、ひとりの旅人の時間と心を深く揺さぶった。
上海空港で起きた18時間の足止め
インド北東部出身のペマ・ワンジョム・トンドクさん（35）は、英国で働きながらロンドンから日本へ向かっていた。2025年11月21日、経由地の上海浦東国際空港で入国審査官に別室へ案内され、パスポートを確認され始めたという。出生地欄に「アルナチャルプラデシュ」とあることを理由に、旅券は「無効」と告げられ、中国人だと繰り返し主張されたと報じられている。本来はおよそ3時間だった乗り継ぎは、その瞬間から異常な長さの待ち時間へと姿を変えた。
トンドクさんは、審査官から「その地域は中国の一部だ」と迫られ、笑いやからかいを交えた言動が続いたと証言する。パスポートは一時没収され、日本行きの便への搭乗も拒まれたまま、空港内の一角で約18時間を過ごしたという。十分な食事や情報も与えられず、不安を抱えながら英国の知人を通じて上海のインド総領事館に助けを求めた。領事館の働きかけで最終的に出国が認められ、本人は中国を離れたが、当時の詳細なやり取りは第三者による検証が限られている。
揺れる領有権主張と両国の応酬
今回の舞台となったアルナチャルプラデシュ州をめぐっては、中国が「南チベット」などと呼び自国領だと主張し、インドは不可分の一部だと反論してきた経緯がある。過去には州の住民にホチキス留めのビザを出したり、地名を中国語名に変えたりする措置がたびたび問題化した。国際民間航空を定めるシカゴ条約などは、乗り継ぎ客の人道的な扱いと有効な旅券の尊重を求めており、今回の事案もそうした枠組みの中で注目されている。
事件が公になった後、中国外務省の毛寧報道官は25日の会見で「法令に基づく確認手続きにすぎず、拘束や嫌がらせはなかった」と説明し、同州は中国領だという従来の立場も強調した。これに対しインド外務省は、州はインドの不可分の一部で住民は正当なインド旅券で渡航できるとする声明を出し、北京などで正式な抗議文書（デマルシェ）を突き付けた。係争地の出身者が第三国を経由するだけで国境問題の延長として扱われかねないとの不安は、航空会社や領事当局にも広がりつつある。
静かなはずの乗り継ぎロビーで、地図上の線をめぐる主張が一人の旅人の身分を揺らした。同じ場所を通る誰の時間も、見えない境界線に左右されない日はまだ先かもしれない。
