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キャンベラの空に春の風が吹いた2025年10月6日、オーストラリアとパプアニューギニアが相互防衛条約に署名した。通称「プクプク条約」は、豪州にとって約70年ぶりの新たな同盟であり、PNGにとって初の防衛同盟である。武力攻撃への共同対処や部隊の統合深化を掲げ、両国の手続き完了後に発効するとみられる。
“プクプク”が示す新しい約束
署名は2025年10月6日にキャンベラで行われた。豪州のアンソニー・アルバニージー首相とPNGのジェイムズ・マラぺ首相が向き合い、太平洋の平和と安定に資する長期の関係を「同盟」へと引き上げた格好だ。半世紀を超える協力の延長線上に、より強い相互の誓いが刻まれたと映る。
条約は、いずれか一方への武力攻撃が両国の平和と安全への危険であると認識し、共通の危険に対処するため「ともに行動する」と明記する。抽象的な理念ではなく、危機に際して肩を並べる意思を法的文書に落とし込んだ点に重みがある。地域の抑止構造にも影響が及ぶとみられる。
同盟は両国の国内手続きを経て発効する見通しである。背景には、2024年12月12日に発効した二国間の包括的安全保障枠組みがある。積み上げた信頼の上に、防衛協力を一段と制度化し、継続性を担保する狙いが透ける。段階を踏んだ「同盟化」が静かに進んでいる。
相互防衛の中身—統合と人材の通路
条約の目的は、主権の保全と相互の防衛・安全保障の利益を守り、地域の安定に資するため、防衛協力を「能力・相互運用性・統合」の面で強化することにある。訓練や運用の擦り合わせを通じて、平時から危機のエッジまでシームレスに動ける態勢づくりが射程に入る。
具体的には、両国の防衛組織の統合度を高める取り組みがうたわれる。現時点で確認されている範囲では、豪州軍への採用に関し、PNG市民のための新たな通路の検討が始まる。2026年1月1日からは、豪州に居住するPNG市民で永住資格のある人が豪州軍への出願が可能になる見込みだ。
一方で、どこまで統合を深めるのか、現場の運用や法制度の整合はこれからの課題である。基地の利用や装備の相互運用、平時の共同訓練の積み増しなど、実務の細部は詰めの段階が続く。条文が示す方向性を、日々の運用にどう落とし込むかが同盟の実効性を左右する。
広がる波紋—地域秩序と中国の視線
条約は近隣諸国の主権と領土保全を尊重する姿勢を明確にしている。第三国を名指しで想定した文言はないが、地域の安全保障環境が緊張と協調の揺れを伴うなか、「誰に有利なのか」を巡る観測が広がっている。両国は協力の透明性も強調し、誤解の回避を図っている。
一部報道によれば、中国は同盟が第三国を排除したり利害を害したりしないよう警戒感を示したという。他方、マラぺ首相は長年の豪州との関係を強調しつつ、特定の国を敵視する意図はないと述べたと伝えられる。安全保障と経済の双方で重層的な関係を維持する構図が浮かぶ。
豪州側は「地域の安全保障関係を築くことが自国の安全にもつながる」との立場を繰り返してきた。域内の信頼と抑止の網をどう編み直すか。同盟という強い言葉の裏側で、訓練、人的交流、法の支配の支え合いといった地道な積み重ねが試されている。偶然ではなく必然の選択に見える。
