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東京の朝、為替ディーリングルームの声が一段低くなった。来日中の米財務長官スコット・ベッセント氏が、日本政府に対し日本銀行の裁量を尊重するよう呼び掛けたことが伝わり、円は対ドルで一時151円台後半まで戻した。発言は29日のX投稿と28日の米財務省声明に連なる流れで、日銀会合（29〜30日）直前の市場心理に波紋を広げた。中央銀行の独立と物価観測、そして為替の落ち着きはつながっているというメッセージが浮かぶ。
円相場が動いた朝、問われる「裁量」
29日午前、為替市場では「Xを見たか」というやり取りが飛び交った。ベッセント氏は政府が日銀の政策運営に裁量を認める意思を示すことが、インフレ期待の安定と過度な為替変動の回避に鍵だとの考えを明確にした。現時点で確認されている範囲では、投稿は日銀会合をにらんだタイミングで発せられ、政策当局に市場とのコミュニケーション強化を促す含意がにじむ。
為替は素早く反応した。ドル/円は一時151.59近辺まで押し戻され、151円台半ばの値動きとなったと報じられている。足元の円安は輸入物価を通じて家計の負担を押し上げてきた背景がある一方、輸出企業の採算を支える側面もある。ベッセント氏の発信は、単なる口先介入というより、インフレ期待の「錨（いかり）」を意識した政策運営を日本に促すシグナルと映る。
同氏は8月に「日銀は後手」との見方をにじませたが、今月に入っては「適切な政策が続けば円は自ずから落ち着く」とトーンを和らげていた経緯がある。今回の呼び掛けは、その延長線上にありつつも、裁量と独立性を明示的に掲げた点で一段踏み込んだ。市場は「次の一手」を探る視線を強めている。
財務相会談と米財務省の声明が示したもの
27日、都内で片山さつき財務相とベッセント氏が会談した。同氏は「協力を楽しみにしている」とし、アベノミクスがリフレ一辺倒から成長とインフレ懸念の均衡を取る政策へ進化してきた点を高く評価する姿勢を示した。28日には米財務省が声明を出し、インフレ期待の安定と過度な為替変動の抑制に向け、健全な金融政策の策定と丁寧なコミュニケーションが重要だと強調した。
一部報道によれば、片山氏は会談後、日銀の運営に直接踏み込む意図はなかったとの認識を示した。日米の言葉は微妙な距離感を保ちながら、最終判断は中銀に委ねられるという共通項で交わっている。ここに「裁量」の真意がある。外からの圧力でなく、独立した判断を支える政治の姿勢が問われているという含意である。
背景には環境の変化がある。アベノミクス導入から12年、エネルギーや食料のコスト上昇、米国関税や世界需要の減速懸念など、物価と成長の地合いは様変わりした。コアインフレ率が目標の2%を超える状態が長期化するなか、声明は「時代が変わった」ことを前提に、政策設計と対話の質を高めよと日本側に促していると読める。
日銀会合を前に、政治と市場の距離
日銀は29〜30日に金融政策決定会合を開く。現時点で確認されている範囲では、市場は政策据え置きを広く織り込む一方、12月または来年1月の利上げ観測も根強い。新政権の高市早苗首相はかつて低金利を支持してきたが、最近は日銀の判断に直接言及する場面を抑えている。ベッセント氏の呼び掛けは、こうした政治の距離感に一石を投じ、独立性の尊重を再確認させる契機となったとみられる。
為替の安定は家計の生活費、企業の投資判断、賃上げの持続性に直結する。今回の論点は、利上げの是非に矮小化されない。物価観測を落ち着かせる対話の設計、政策の先行きに一貫性を持たせる工夫、そして緩み過ぎた円安を放置しない姿勢をどのように示すかに焦点が移っている。会合後の文言や会見で、日銀が「裁量」をどう具体化するかが試される局面である。
