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オタワの空はうっすら曇り、記者団のざわめきが続く中、カナダのカーニー首相が静かに口を開いた。2025年10月27日、首相は米国との貿易協議について「再開に臨む用意がある」との姿勢を示したと一部報道が伝えた。ここ数日で米加関係は緊張の度合いを増してきたが、交渉の窓は閉じていないというメッセージである。韓国で開かれるAPECの場を念頭に、対話の糸口をどう手繰り寄せるかが問われていると映る。
揺れる米加関係、交渉の窓は閉じていない
カーニー氏は10月27日、米国との交渉再開に応じる準備があると強調したとされる。今月23日以降、トランプ米大統領と直接の連絡は取っていないとしつつも、「扉は開けたままにしている」との含みを残したという。現時点で確認されている範囲では、カナダ政府の公的資料に当日の発言録は掲載されていないが、政権として対話を排除しない方針は一貫しているとみられる。
一方のトランプ氏は27日、記者団に「彼とは会いたくない。しばらく会うつもりはない」と述べたと伝えられた。ことばの温度差が際立つが、首脳間の直接対話がいったん途絶えても、実務レベルのチャンネルは維持されるのが通例である。過去の5月にも両首脳は首都ワシントンで会談の機会を持ち、関係修復の糸口を探った経緯がある。
米加経済はサプライチェーンで深く結びつき、エネルギー・自動車・農産品など相互依存が進む。関税や数量規制の応酬は、企業の在庫・投資判断から消費者価格まで広範な影響を与える。交渉の窓を開けたままにするという首相のメッセージは、為替や資本市場の不安定化を抑える狙いもにじむ。
応酬の発端とされる広告、事実関係に揺れ
火種とされたのは、オンタリオ州がレーガン元大統領の発言を引いて関税措置を批判した政治広告だと一部報道は指摘する。これにトランプ氏が激怒し、今月23日に交渉打ち切りを宣言、25日にはカナダ製品に10％の追加関税を課すと表明したという流れが描かれている。しかし、現時点で確認されている範囲では、米政府の公的文書で当該追加関税の発動や詳細な対象品目は確認できていない。
政治広告の内容や出稿主体、引用の正確性についても報道に揺れがある。州の広報物と政党広告の線引き、連邦・州の権限関係、米国側がどの発言を問題視したのかなど、精査すべき点は少なくない。こうした情報の非対称性は、相手国の強硬発言を誘発し、結果として双方の国内世論を硬化させる悪循環を生む。
いずれにせよ、米加間の通商関係は、単発の広告や発言だけで転ぶほど単純ではない。自動車の原産地規則や農産品の検疫、デジタル貿易のデータ移転など、日常的に運用判断が積み上がる制度のレイヤーがある。そこでの協調・調整をいかに続けるかが、市場にとっての実質的な安定材料になるとみられる。
APECの向こうに見える次の局面
カーニー氏は、韓国で開催されるAPECに米加両首脳がともに出席すると述べたとされる。多国間の場は、二国間の緊張を和らげる実務協議の好機になりやすい。米国の追加関税示唆や会談見送り発言が飛び交う中でも、閣僚級の意見交換やワーキンググループは粛々と動く。首脳会談が実現しなくとも、次の一手を仕込む余地は残る。
その傍らで、カーニー氏は中国の習近平国家主席との会談にも意欲を示したという。対中対話の扱いは米国との距離感に直結し、北米のサプライチェーン再編にも波紋を広げる。関税の応酬が現実味を帯びる局面ほど、第三国との経済連携を梃子に、交渉の地平を広げる必要がある。アジア諸国との関係強化に動いた最近の首相の外遊日程からも、その戦略がうかがえる。
結局のところ、鍵を握るのは「対話の持続性」である。強い言葉が相次いだ10月下旬でも、双方が完全な決裂を避けている限り、落としどころは探れる。市場と有権者が注視するのは、次にどの窓口で、何を落とし込むのかという具体だ。首脳の言葉に一喜一憂しつつも、実務の積み重ねが現実を動かすという当たり前の感覚を、いま一度確認したい。
