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中国の王毅外相が11月28日、北京で英国のジョナサン・パウエル首相補佐官（国家安全保障担当）と会い、日本を巡る中国の立場を説明した。中国外務省や新華社電によると、王氏は台湾を含む「一つの中国」原則の順守と、第2次大戦の戦後秩序を共に守るよう英国に求めたという。日本との緊張が高まるなか、中国がなぜ英国にまでメッセージを送るのか、その狙いと影響をたどる。
高まる日中対立、その余波は日本社会にも
今回の会談は、台湾有事への対応をめぐる日本側の発言をきっかけに、中国と日本の関係が急速に冷え込む局面で行われた。ロイター通信によれば、高市早苗首相が中国の台湾侵攻を想定した軍事対応に言及し、中国側は「衝撃的な誤ったシグナル」と強く反発している。王氏が英国側に日本関連の「原則的立場」を詳しく説明したのは、この対立の構図を欧州にも理解させたい思惑がにじむ。
日本にとって英国は、G7や安全保障で足並みをそろえる重要なパートナーだ。その英国が中国側の説明をどの程度受け入れるかは、日本外交の発信力や説得力とも関わってくる。中国は日本の第2の輸出相手国であり、摩擦が深まれば日本企業の業績や雇用を通じて家計にも波及しうる。外交上のメッセージの応酬が、最終的にはサプライチェーンや観光客の往来といった身近な領域に影を落とす可能性もある。
過去には、歴史認識や領有権を巡る対立が、レアアース輸出管理や観光交流の縮小と結びついた例がある。そうした経験を踏まえると、日本社会にとって今回の動きは「遠い国の外交」ではない。英国の受け止め方次第で、対中強硬論と経済重視論のバランスが国内で変化し、企業の投資判断や市民の安全保障観にもじわりと影響しうる局面に来ている。
中国が英国に求める役割と、揺れる対中政策
王氏はパウエル氏との会談で、中英関係を長期的な視野で捉え、理性的で友好的な姿勢に立つよう英国に促したとされる。戦略的対話を維持し、必要な協調を強めるべきだと訴えた背景には、米中対立が続くなかで欧州の一角としての英国に「仲介役」的な役割も期待する中国側の計算がある。
一方の英国では、近年の安全保障戦略で中国を「体制上の競争相手」と位置づけつつも、気候変動や経済協力では切り離せないパートナーとみる複雑な姿勢が続いてきた。総選挙を経て誕生した労働党政権下で、パウエル氏は「一貫性と長期性を備えた関係」を志向すると中国側に伝えたと報じられている。対中政策の揺れを抑えたい英国側の思惑と、中国の「前向きで現実的な対中政策」を求める主張は、利害が完全に一致しないまま重なり合う。
英国は、空母打撃群のインド太平洋展開やAUKUSへの関与など、地域の安全保障にも一定の存在感を示してきた。その英国に対し、中国が日本や台湾に関する「原則」をあらためて説明することは、ロンドンを通じて欧州全体にメッセージを広げる意味合いも持つ。フランスやドイツも対中経済依存を減らしつつ対話継続を模索しており、各国の対中スタンスを少しでも自国寄りに引き寄せたい中国と、価値観と利益の間で揺れる欧州の駆け引きが続く。
日本と欧州に残るリスクと選択肢
ロイター通信は、今回の中国の呼びかけが、日本との台湾を巡る対立の文脈の中で行われたと指摘する。英国が中国の主張に理解を示せば、日本は同盟国・友好国の間で立場の違いに直面する可能性がある。逆に英国が台湾問題で日本や米国に近い姿勢を強めれば、中国側は「欧州まで巻き込んだ包囲網」とみなし、対抗措置を検討するリスクも否定できない。
会談ではウクライナ危機など他の国際問題も取り上げられたとされる。中国は自らを「調停役」として位置づけつつ、台湾や日本関連の主張では譲れない線を引く。安全保障と経済、歴史認識が絡み合うなか、日本と欧州はそれぞれの国内世論や産業への影響を踏まえ、どこまで中国との対話を維持し、どこからは距離を取るのかという線引きを迫られている。
日本にとって重要なのは、対中関係を過度に悪化させずに、台湾海峡の安定や歴史問題への立場をぶれずに示し続けることだろう。中国が英国など欧州諸国を巻き込んで自らの正当性を訴える局面は今後も増えるとみられるが、そのたびに日本側の説明力や情報発信の質が問われる。日中欧がそれぞれの事情を抱えつつも、衝突を避けるための細い対話の糸を絶やさないことが、静かながらも重い課題として残る。
