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在ワシントンの中国大使館の担当者がスマートフォンの画面に打ち込んだのは、短い英語の一文だった。「中米は誰の裏庭でもない」。現地時間26日、米国が中米出身で中国と協力する人物を狙い撃ちにした新たなビザ政策を打ち出したことに対し、中国が強い語調で反発した場面だ。
ビザ政策が生んだ新たな火種
米国務省は9月、特定の中米国民とその家族について、米国ビザの発給を制限する方針を公表した。対象は、中国共産党のために意図的に行動し、地域の安定や法の支配を損なっていると米側がみなす人物とされる。こうしたビザ制限は人権侵害や汚職などに絡めて使われてきたが、第三国との関係そのものを理由にした運用は異例である。
これに対し中国は26日、今回の措置は国連憲章や主権平等・内政不干渉の原則に反すると批判した。在米中国大使館はXへの投稿で、ビザを政治的な圧力手段に使うことは容認できないと訴え、中米地域での中国との協力は、インフラ整備や雇用を通じて経済と生活を支えてきたと強調した。「国際関係は圧力ではなく、尊重とパートナーシップの上に築かれるべきだ」とも述べている。
一方、米国務省は現時点で詳しい説明を出しておらず、この新しい方針に基づき何人のビザが実際に制限されたのかも明かしていない。大使館の声明で名指しされた国のひとつ、パナマの大統領は先月、在パナマ米国大使館の関係者から、自国当局者のビザを取り消すと脅されたと語っている。個別のやりとりに過ぎない発言だが、現場での緊張感を物語る。
「裏庭ではない」という言葉の背景
中国大使館が使った「裏庭」という言葉は、長年、米国が自国の勢力圏とみなしてきた中南米への視線を逆手に取る表現でもある。米政府は近年、中国が港湾や通信、エネルギーなどの投資を通じて中南米で影響力を強めていると繰り返し懸念を示してきた。中国外務省は南太平洋諸国をめぐる議論でも「どの地域も誰かの裏庭ではない」と述べており、特定の国による排他的支配を認めない姿勢を前面に出している。
中米諸国にとって、中国とのインフラ投資や貿易拡大は成長の機会である一方、治安や移民問題で深く結び付く米国との関係も切り離せない。今回のビザ制限と中国の反発は、その板挟みの構図を改めて浮かび上がらせたと言えるだろう。表向きは数人の入国可否を巡る判断でも、その背後では大国同士の思惑が静かにせめぎ合い、当事国の人々の日常にもじわりと影を落としている。
