台湾・人権を越えるな　謝鋒大使、通商安定へ米側に自制促す

2025.11.04

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釜山での米中首脳会談から日が浅い夜、ワシントンの会場に集まった経済人の前で、中国の謝鋒駐米大使が静かに線を引いた。台湾、民主・人権、政治体制、発展の権利――通商休戦を保つうえで触れてはならない「一線」が改めて示されたのである。一方で、最先端AI半導体の扱いは議題から外れたと伝えられ、経済と安全保障の綱引きが続く構図が浮かぶ。

中国が示す「4つの一線」

謝氏は米中ビジネス協議会の催しで、「最も重要なのは互いの核心的利益と主要な懸念を尊重することだ」と強調した。2025年6月20日、同氏はワシントンでのガラで中国の主権・安全・発展利益は越えてはならない一線だと語り、首脳間の合意を着実に履行する姿勢を示した。この語り口は、休戦を現実の行動で裏打ちしなければならないというメッセージとして響く。

中国側は、その「一線」をより具体に4点で定義してきた経緯がある。台湾、民主・人権、路線と制度（政治体制）、そして発展の権利である。2024年の首脳会談後に整理された枠組みは、米中が対立を管理するための最低限のガードレールだと位置づけられてきた。現時点で確認されている範囲では、謝氏の発言はこの枠組みの延長線上にあるとみられる。

一線の意味合いは実務にも直結する。貿易や投資の議題がいかに前へ進んでも、4点のどれかで越境が生じれば休戦は脆く崩れかねない。北京が「尊重」を繰り返す背景には、経済と制度・主権の論点を切り分け、衝突の芽を早期に刈り取る意図がにじむ。会場に流れた落ち着いた口調は、むしろ線の硬さを際立たせたと映る。

AI半導体をめぐる「議題からの後退」

一方、釜山での会談が行われた2025年10月30日、米側は次世代AI半導体をめぐる協議を避けたと報じられた。報道によれば、Nvidiaの最新「Blackwell」を中国に提供することは安全保障上の懸念が大きいとして、政権幹部が大統領に議題化を見送るよう進言したという。技術の優位と拡散リスクをどう線引きするかが、休戦下でも最も敏感な争点であることを物語る。

米側は一部関税の調整や農産物の再購入といった緊張緩和の措置を模索しつつも、先端チップの輸出規制では譲らない姿勢を崩していない。企業側は中国向けに性能を抑えた設計で接点を探るが、承認の可否やタイミングは政策判断に左右される。休戦が続くほどに企業は投資と調達の判断を迫られ、地政学がキャッシュフローを揺らす局面が続くとみられる。

技術の「壁」を維持したまま通商の「橋」をかけられるのか。釜山での駆け引きは、その試金石になった。AIという成長分野での優位を守るため、米側は線を濃く引く。一方で、経済活動を冷やしすぎれば自国企業の競争力を損ねる。相反する要請の間で微妙な舵取りが続く構図だ。