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在日本中国大使館がサンフランシスコ講和条約を「不法で無効だ」として正面から批判した。12月2日、X(旧ツイッター)への投稿で、高市早苗首相が党首討論で持ち出した同条約を名指しし、第2次大戦の主要戦勝国である中国やソ連を排除して結ばれたと主張したのだ。台湾の扱いをめぐり、日本政府が「自ら法的地位を判断しない」としてきた前提そのものに異議を突きつける動きである。
SNS発の異議が、日本の対中認識を揺らす
今回の投稿は、11月26日の党首討論で高市氏が示した説明への直接の応答だ。首相は、サンフランシスコ平和条約により日本は台湾に関する一切の権利を手放したと述べ、その結果として台湾の法的地位を日本が独自に決める立場にはないと語った。日本側では長年続く整理だが、中国側はこれを「歴史をねじ曲げた台湾地位未定論」と位置づけ、日々の論評や解説で繰り返し批判している。
条約や国連決議を巡る応酬は、一見すると専門家同士の抽象的な法解釈論争に見えるかもしれない。しかし、日本が台湾有事を自国の「存立危機事態」となり得ると位置づけ、安全保障政策や防衛力整備を議論するなかで、隣国がその法的前提を否定する意味は重い。市民や企業にとっても、将来のリスクを見通すうえで、何を共有された国際ルールとみなし、何を一方的な主張と受け止めるべきかが一段と分かりにくくなるからだ。
日本政府の立場もまた、国内で必ずしも明快に理解されているとは言いがたい。報道の中には「日本は台湾を中国の一部と認めている」といった書きぶりが見られ、政府が公式にはそこまで明言していないことを指摘する論考も出ている。条約と共同声明の組み合わせで成り立つ微妙なポジションが曖昧なまま、中国大使館のような強いメッセージだけがSNSで拡散すれば、世論の受け止めは一層揺れやすくなる。
サンフランシスコ体制をめぐる、日中二つの物語
中国政府はこれまでも、サンフランシスコ講和条約を「不法で無効」と位置づけてきた。外務省報道官は8月の記者会見で、同条約は米国が一部の国だけを集め、中華人民共和国とソ連を締約国から外した単独講和であり、連合国共同宣言や国連憲章の原則に反すると主張した。そのうえで、台湾の帰属はカイロ宣言やポツダム宣言、日本の降伏文書によって中国側にあることが確認されていると強調している。
一方、日本政府はサンフランシスコ平和条約で台湾に対する全ての権利や請求権を放棄したという事実を出発点にする。台湾の法的地位については、日本が独自の認定を行う立場にはないと説明し、1972年の日中共同声明で「中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府と認める」とした。ただし、台湾そのものを中国の一部と断定する文言は盛り込まず、あえて曖昧さを残した形になっている。
同じ戦後処理を論じながら、日中は拠って立つ文書も、強調する論理も異なる。日本が多国間条約と同盟関係を戦後秩序の柱とみなすのに対し、中国は対日戦勝の歴史と国連総会決議を前面に掲げる。今回の中国大使館のSNS投稿は、そうした長年の認識ギャップを、日本の現職首相の発言と結びつけて可視化したものであり、単なる一度きりの反発以上の意味を帯びている。
条約解釈の「言論戦」が突きつける日本の選択肢
サンフランシスコ体制そのものを否定する中国側の言説は、決して今回が初めてではない。ただ、対日メッセージとしてSNS上で繰り返し発信されることで、国際世論に向けた「法律戦」としての性格を強めつつある。武力を用いずに、自国の見解を既成事実化しようとする動きであり、その矛先は台湾問題だけでなく、日米同盟を含む戦後の安全保障枠組みにも向きうる。
日本にとって重要なのは、こうした主張に逐一感情的に反応することではなく、自らの立場をどこまで整理し、誰に向けて説明するかを明確にすることだ。台湾の法的地位について「判断する立場にない」というフレーズの背後には、日中共同声明と平和条約のバランスを保とうとする政治的計算があるが、その狙いと限界は専門家以外には伝わりにくい。説明が不足すれば、「歴史修正主義」との批判だけが一人歩きしかねない。
台湾海峡をめぐる緊張が高まるほど、法文や条約解釈を舞台にした攻防は増えていくだろう。条約と歴史の解釈を土台とする国家である以上、日本は自国の論理を国内外の市民にも分かる言葉で積み上げていく責任を負う。中国大使館の今回の投稿は、その作業を先送りにはできないという事実を、静かながらも鮮明に突きつけている。
