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握手の直後に言葉がはずんだ。2025年11月4日、北京で王毅外相はエストニア外相と会談し、EUとの自由貿易協定の交渉と締結に前向きだと表明した。「中国と欧州は協力のパートナーで、ライバルであってはならない」。通商摩擦が続く局面で、対話の糸を太くする意図がにじんだ。
北京で交わされた言葉
会談の冒頭、王氏は両国の関係に懸念すべき根の深い対立はないと述べ、実務協力の余地を強調した。続けて、EUとのFTAを「交渉し、締結する用意がある」と語り、制度や価値の違いを競争の口実にしない姿勢を示した。相手を前に置き、欧州全体へ向けた信号を送った形だ。
発言の背景には、国内で進める高水準の開放や改革の動きがある。外に向けてはサプライチェーンの結節点を増やし、内に向けては市場接続を磨く狙いだ。大型博覧会や企業対話の枠組みと重ねることで、政治と経済の往来を同時に温める周到さも見えた。
一方のエストニア側は、基本的立場の確認に触れつつ交流拡大への意欲を伝えた。約10年ぶりとなる外相の訪中は、冷えた期間の長さを意識させる。それでも再開の扉が開いたという事実は、両者が小さな接点を積み上げる余地を示している。
経済をめぐる駆け引きの現在地
中国と欧州のあいだでは、通商上の火種が絶えない。輸出入の調整や産業政策をめぐり、相互に調査や防衛措置が重なってきた。企業にとっては不確実性が増し、投資判断の視界が曇る場面が続く。だからこそ、FTAという枠組みの呼びかけは、制度間の橋を描く試みになる。
もっとも、協定は一挙に形になるものではない。EU側の規制や貿易執行の枠組み、国家補助や調達の透明性など、擦り合わせる論点は多い。関税の話に留まらず、データや標準、持続可能性といった規律の調和が問われる。発言は道筋の起点を示したにすぎない。
王氏は欧州のインフラ戦略とも接続を図りたい考えを重ねて述べた。互いの構想をつなぐ提案は、地政学の緊張を和らげつつ、具体の案件で関係を再設計する手段になりうる。協力の言葉が、実際の投資やルール作りへ変わるまでには、相応の時間と信頼がいる。
静かな手応えと残る距離
この日の会談は、足並みの違いを残したまま、対話の経路を確保した点に意味がある。安全保障や第三国情勢をめぐる見方の差は容易に埋まらない。それでも、双方が「対立の固定化」を避ける表現を選んだことで、次の往来に繫げる余白が保たれた。
FTAが実現するとすれば、段階的な議題設定と政治判断の積み重ねが不可欠になる。企業はその間隙で、小さく試し、大きく動く準備を進めるだろう。手続きの難しさと機会の広がりが同時に存在するのが、いまの関係の肌触りである。
会談後、記念撮影の列が静かに解けた。言葉は先走らず、扉は閉じていない。小さな往復が積み重なった先に、どれだけの幅が生まれるのか。北京の廊下に残った靴音が、その距離を測っているように響いた。
