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中国軍戦闘機が航空自衛隊機にレーダーを照射した問題を受け、自民党は8日午前、党内の安全保障調査会と外交調査会などの合同会議を緊急開催した。沖縄本島南東の公海上空で起きた今回の事案を「偶発的な衝突につながりかねない危険な行為」と位置づけ、中国側を強く批判。政府に対しては、日本側の行動が国際法上正当であることを国内外に発信するよう求めた。緊張する空の最前線と、東京の与党中枢で交わされる言葉との距離が、改めて浮かび上がっている。
レーダー照射が意味する「一歩手前」の危険と、沖縄の空
防衛省によれば、問題のレーダー照射は6日午後、沖縄本島南東の公海上空で2回発生した。中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、領空侵犯対処のために飛行していた航空自衛隊F-15戦闘機に対し、数分から数十分にわたり断続的に照射したと説明している。自衛隊機や隊員に被害はなかったが、火器管制レーダーが向けられる行為は、ミサイル発射の直前とも受け取られる極めて危険な信号だ。
同様の事案としては、海上自衛隊の艦艇が中国艦から照射を受けたと日本側が明らかにした2013年のケースが知られる。当時も「偶発的な軍事衝突」に対する懸念が高まったが、今回は航空機同士で、速度も距離もさらにシビアだ。沖縄周辺では日常的に自衛隊機のスクランブル発進が行われており、住民の中にはエンジン音や編隊飛行を見慣れている人も多い。一方で、レーダー照射そのものは目に見えず、いつ事故や誤認が起きてもおかしくないという不安だけが静かに積み重なっていく。
米中対立や台湾情勢を背景に、中国軍の空母打撃群が沖縄近海で大規模訓練を行う場面も増えている。今回のレーダー照射も、空母からの発着を繰り返す訓練のさなかに起きたとされる。日本側は警戒監視と領空保全を担い、中国側は「正当な訓練だ」と主張する構図の中で、現場のパイロットは瞬時の判断を迫られる。安全域を少しでも逸脱すれば、双方が「挑発だ」と受け取る危うい空間に、沖縄の空は変わりつつある。
与党が求める「発信強化」は、何を世界に伝えようとしているか
こうした中で開かれた自民党の合同会議では、中国軍機によるレーダー照射を「断じて容認できない危険行為」と位置づけたうえで、日本の正当性を訴えるための対外発信の強化が政府に要請された。防空識別圏内での自衛隊機の活動は、国際法上認められた警戒監視だとする立場を前面に出し、中国側の主張に反論すべきだという問題意識がにじむ。会議では、国会外交や英語での情報発信のあり方も論点となったと報じられている。
政府はすでに、中国側への抗議を重ねている。7日には外務省が在京中国大使を呼び出し、「極めて遺憾」として再発防止を厳重に求めた。防衛相も未明に臨時会見を開き、航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える行為だと強く非難している。一方、中国側は日本の自衛隊機が複数回接近し、自国機の安全を脅かしたと反論しており、双方の主張は真っ向から対立したままだ。
8日朝の記者会見で、木原稔官房長官は「自衛隊機が中国機の安全を害したとの中国側の主張は根拠がない」と述べ、日本側の行動は適切だったと強調したと各紙が伝えている。与党が求める「発信強化」とは、こうした政府見解を単に国内向けに繰り返すだけでなく、国際社会に向けても丁寧に示していくことを指す。軍事技術の専門用語が飛び交う今回のような事案ほど、第三国にとっても、どちらの説明が筋が通っているのかが見えにくい。そこで、データの開示やタイムラインの整理を通じて、透明性を高めることが課題となる。
偶発衝突を防ぐために、政治と軍事の「二重の対話」をどう築くか
レーダー照射をめぐる日中の応酬は、安全保障環境の変化を象徴している。空母を含む大規模な演習が常態化するなかで、レーダーの照射や接近飛行そのものが政治的メッセージとして使われやすくなっているからだ。日本政府は「冷静かつ毅然と対応する」と繰り返し強調するが、その内実は、現場の安全を確保しながら、過度なエスカレーションを避けるという難しい綱渡りにほかならない。
偶発衝突を防ぐには、軍同士のルールづくりと、政治レベルの対話という二つのレイヤーが欠かせないと指摘される。前者では、接近距離やレーダー使用に関する共通ルールやホットラインの運用など、現場が即座に参照できる仕組みが重要になる。後者では、首脳や外相、防衛相どうしが「どんな事態ならエスカレートさせないか」という共通認識を持てるかどうかが問われる。レーダー照射そのものへの非難だけでなく、危機管理の枠組みをどう再構築するかが、今回の事案の延長線上にある課題だ。
自民党の合同会議は、まずは日本側の正当性を世界に訴えることを求めた。しかし、発信の強さだけでは、空で向き合うパイロットの不安も、沖縄の住民が抱く緊張感も和らがない。政治が担うべき役割は、日本側の立場を説明することに加え、危険な接近が繰り返されない環境をどこまで整えられるかにある。今回の議論は、その出発点に立ったにすぎず、対話の枠組みづくりと情報公開の両方をどう進めるかが、今後も問われ続けるだろう。
