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中国の大豆輸入が勢いを増している。中国税関総署の通関統計をロイターが集計したところ、2025年11月の大豆輸入は前年同月比13.4%増の811万tと、11月としては2021年以来の高水準となった。1〜11月累計も6.9%増の1億0379万tに達し、通年では過去最高が視野に入る。南米産の豊作と米国との「休戦」による調達環境の改善が追い風となる一方、この「爆買い」は誰の利益と負担につながるのかが問われている。
増え続ける輸入、家畜と食卓を支える現場の事情
11月の811万tという数字だけを見ると平年並みにも映るが、実際にはこの半年間、中国の大豆輸入は異例の高水準が続いている。10月の輸入は約948万tと、10月として過去最高を更新。7月には1,167万tと記録的な水準に達しており、秋以降も高いペースを維持している。背景にあるのは、養豚・養鶏向け飼料に使う大豆かす需要の増加と、国内加工業者が操業を止めないための「在庫の厚め確保」という現場の判断だ。
大豆は搾油すると食用油になり、かすは飼料として使われる。中国ではアフリカ豚熱からの回復で豚の飼養頭数が増え、飼料需要が膨らんでいる。飼料価格の急騰は肉の小売価格に直結するため、粉砕工場や飼料メーカーは、国際価格が落ち着いている局面で一気に原料を確保しようとする傾向が強い。10月までの累計輸入が前年同期比6%超の増加となっているのも、こうした先回りの調達が積み上がった結果とみられる。
大豆は豆腐や豆乳などとして日本人にもなじみ深いが、中国では食用油としての比重がより大きい。輸入が細ればまず飼料向けが優先され、油や食品向けの供給が圧迫されるおそれがある。そのため、現場の加工業者にとっては、多少の保管コストを払ってでも高水準の在庫を抱え、需給リスクを抑えることが経営上の防御策になっている。記録的な輸入の背後には、家畜と食卓を守ろうとするこうした判断が積み重なっている。
南米依存から米国との休戦へ、調達戦略の転換点
今回の記録的な輸入を支えているのは、何よりブラジルを中心とした南米の豊作だ。ことし前半にはブラジル産が長期にわたり潤沢に出回り、6〜7月の中国向け輸出は前年比2桁増となった。中国側は、価格が安く安定している南米産に依存することで、米国との貿易摩擦による関税リスクを回避してきた経緯がある。実際、9〜10月には中国が米国産大豆の輸入を一時ほぼ止め、南米からの調達に大きく傾斜していた。
しかし11月分の統計が示すのは、そうした姿勢に変化が出てきたことだ。ロイターが伝えるところでは、通年の輸入見通しには米国産の回復も織り込まれており、両国の「休戦」によって追加関税リスクが和らいだとみる向きが多い。中国側にとっては、調達先を一定程度多様化することで、特定地域の天候不順や輸送トラブルに伴う価格急騰を抑える狙いもある。南米一本足では、干ばつなどが起きた際のリスクが大きすぎるからだ。
他方で、米中関係の変化に輸入戦略が左右される構図は変わっていない。2025年だけを見ても、春先の対立激化期には米国産を避け、秋の首脳会談後には米国からの調達を増やすという揺れがあった。国家戦略と企業判断が絡み合うなか、輸入の急増は「安く買えるうちに」という合理性と、「いつまた摩擦が再燃するか分からない」という地政学的な不安の両方を映している。
世界市場と日本への波紋、記録更新の先に残る課題
11月までの累計輸入が1億0379万tに達したことで、市場関係者の多くは中国の年間輸入が1億1,000万t前後と、過去最高水準になるとみている。米国農務省の需給見通しでも、2025〜26年度の中国の大豆輸入は過去の記録と並ぶ規模が予測されており、世界の大豆需給は中国の動き次第という構図が一段と強まっている。ブラジルや米国の生産者にとっては追い風だが、他の輸入国は価格と調達枠を巡る競争を強いられかねない。
日本も例外ではない。日本の大豆自給率は低く、飼料や食品加工用の多くを輸入に頼る。中国が高値でも大量に買い進めれば、国際価格はじわじわ押し上げられ、日本の商社や食品メーカーは調達コスト増と向き合うことになる。足元では豊作で供給に余裕があるため、店頭価格への影響は限定的だが、天候不順や物流の混乱が重なれば一気にひっ迫するリスクもある。中国の「記録的輸入」は、遠い市場の話ではなく、日本の食卓の安定性ともつながっている。
記録更新そのものは生産国と中国にとっての成果だが、その裏側では、特定の巨大需要国に世界の穀物流通がどこまで依存してよいのかという問いが残る。誰がどのコストを引き受け、どこまで在庫を積み増すのか。中国の調達戦略が安定をもたらすのか、新たな不安定要因となるのかを見極めることが、これからの国際穀物市場と各国の食卓に共通する課題になりつつある。
