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薄曇りのロンドン、ホワイトホールの廊下に重い気配が漂う。ジョンソン元首相の首席顧問を務めたカミングス氏が「中国が英政府機関のネットワークに長年侵入し、最高機密を含む膨大なデータが流出した」と証言したからだ。英紙の報道は2025年10月16日に表面化し、政府の情報管理と説明責任に改めて焦点が当たった。疑念はサイバー空間の暗がりから、政治の中心へとにじみ出ている。
“最高機密”に届いたとする告発
一部報道によれば、カミングス氏は「英政府内で最も機密性の高いデータを転送するインフラに長年の侵入があった」と主張し、「最高機密情報」を含むデータが流出したと語った。対象には情報機関の素材や内閣府国家安全保障局の文書も含まれたとされ、流出の規模は「膨大」との表現が並ぶ。2020年には自身やジョンソン氏に報告が上がっていたとも述べ、対応の遅れと重ねて公表の見送りがあったと示唆した。
イギリスの機密取り扱いでは、極めて限られた範囲で共有される高度な指定が存在する。カミングス氏は、その領域にまで手が伸びたと指摘し、国家の通信・情報網の「基盤」に関わる問題だと訴えた。具体的な侵入経路や技術的手口には触れていないが、議会が調査に乗り出すなら証言する用意があると語ったという。告発は、国家の神経中枢にかかった影の輪郭を浮かび上がらせる。
同氏の証言の時間軸は、世界的に国家主導のサイバー活動が激しさを増した時期と重なる。2025年10月16日に開示された内容は、英国内で続く対中スパイ疑惑の余波とも相まって、情報保全の綻びが政治の場でどう扱われてきたのかという視点を呼び起こす。真偽の判定を超えて、国の危機管理の手つきが問われていると映る。
政府は即否定、脅威評価は厳しさ増す
一方で政府は強く反論している。2025年10月16日 03:00ごろに配信された記事では、内閣府報道官が「最も機密性の高い政府情報を転送するシステムが侵害されたという主張は事実でない」と明確に否定したと伝えられた。カミングス氏の「数年にわたる侵入」という表現に対し、政府側は中枢システムの安全性は保たれているとの立場を示した格好だ。評価は真っ向から割れている。
ただ、国家安全保障の現場は緊張を強める。2025年10月16日、英情報機関MI5のマッカラム長官は年次の脅威アップデートで、中国によるサイバー諜報や政治介入の試みを列挙し、警戒を呼びかけた。特定の事件に言及はないが、英国内で国家起因の脅威が増量・多様化しているとの情勢判断は明確である。脅威の土台が厳しさを増す中、個別の疑惑が重みを帯びてくる構図だ。
さらに政治の場では、対中スパイ疑惑の訴追が頓挫した経緯をめぐって責任の所在を問う声が広がっている。政府は証拠の公開や説明を進めるとしつつも、外交・経済関係への影響とのバランスを取る姿勢を崩していない。安全保障機関は脅威の実像を語り、行政は制度の堅牢さを強調する。両者の言葉が交差しながら、国民の不安と知る権利のはざまに緊張が漂っている。
残る論点――隠蔽の有無と検証の場
告発の核心は二つに分かれる。第一に、侵入の有無と範囲である。ここは技術的検証と記録の突合に委ねるしかない。第二に、公表の判断だ。2020年に報告を受けながら公にせず「隠蔽した」との主張は重く、危機対応の基準やガバナンスの透明性が問われる。現時点で確認されている範囲では、政府は否定し、当事者は証言の用意を示す。事実関係の精査なしに結論を急げば、信頼をさらに損なうおそれがある。
求められるのは、国会や独立機関を軸にした段階的な検証だろう。機微情報の秘匿と説明責任の両立は難題だが、手順を誤れば将来の危機時に必要な情報共有が萎縮する。逆に、正当な公表基準と迅速な技術対処の仕組みが機能すれば、同種の侵入を抑止し、同盟国との信頼も補強できる。制度の見直しは静かな作業だが、効果は広く社会に波及する。
夜のロンドンに雨が落ちる。告発と否定がぶつかるなか、ひとつ確かなのは、サイバー空間での攻防がもはや周辺の話題ではないということだ。政治判断、技術運用、国民への説明――三つの歯車が噛み合わなければ、次の危機は静かに深部からやってくる。事実の確定と手当てが、いまほど待たれる時はないとみられる。
