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2025年10月2日、霞が関の会議室で二つのロゴが並んだ。デジタル庁は職員向けAI環境「源内」にOpenAIの言語モデルを新たに組み込む方針を示し、行政向けアプリの共同開発に踏み出すと発表した。省庁横断の業務をAIで底上げする狙いが、実装段階へ加速する局面と映る。
ロゴが並んだ日、行政AIは次の段階へ
発表は静かな熱を帯びていた。デジタル庁は、職員が日常業務で直接使うAI環境「源内」に、OpenAIが提供する大規模言語モデルを活用したサービスを新たに追加する方針を示した。単なる試行にとどめず、業務に直結する形での利用を前提に据える点がこれまでと異なる焦点である。
同時に、両者は行政機関向けの生成AIアプリケーションについて、開発と利用実証の協力可能性を検討すると確認した。チャットだけでなく、文書作成や調査・審査といった現場アプリの中にAIを織り込む発想だ。誰に有利なのか。少なくとも、時間と手間という行政の希少資源に余白を生むことは確かだと映る。
源内の各府省庁への展開も進める方針が示された。デジタル庁は「情報システムのセキュリティを適切に確保した上で」利用できる体制を整えるとし、機微情報を扱う場面でも統一の基準で運用できる基盤づくりを前に進める。ガバメントAIの輪郭が、現場の画面の向こうに立ち上がりつつある。
「源内」が変える実務の手触り
源内は、生成AIを庁内で安全に使うための共通環境として内製で構築された。文案の素案作成や翻訳といった基礎的な機能から、業務アプリの中で補助役を務める機能まで、複数の用途を束ねる。作業の一行目を素早く生み、資料の要点を素早くつかむ。その積み重ねが、実務の速度を静かに上げていく構図である。
デジタル庁は、行政実務を支えるアプリケーションの提供と検証を通じ、現場での使いどころと課題を洗い出してきた。業務で扱える情報範囲の線引き、出力の確認方法、記録の残し方――AI導入の現実的な論点が、プロダクトの設計判断として反映されている。偶然ではなく、使うための準備が先行している流れだ。
その過程で見えてきた解は、環境と人の両輪にある。機密性の要件を満たす利用環境を整え、必要な機能を持つ基盤を用意する。同時に、教育コンテンツや専門家の伴走支援を通じて、現場の手つきを磨く。AIが得意なところを任せ、職員が判断に集中する関係性をどう設計するかが、次の効果を左右するとみられる。
調達の壁とISMAP、セキュリティの条件
行政の情報システムにAIを広く組み込むには、調達の前提となるセキュリティの土台が欠かせない。政府の「ISMAP」は、求めるセキュリティ要求を満たしたクラウドサービスを評価・登録し、調達の水準を担保する仕組みである。各機関がこの枠組みの中でサービスを選ぶことが、実装の速度と安心を両立させる。
生成AIサービスについては、ISMAPの枠内に登録はあり得る一方、利用時の固有リスクへの別途対応が必要と制度側は明記する。暗号鍵管理やアクセス制御、人手による確認プロセス――運用の細部に安全の担保が宿る。源内の展開でも、この要件を満たす形での整備が前提となる。
一方で、民間サービスの積極的な活用は道を広げる。デジタル庁とOpenAIが示した協力は、制度のガードレールの内側で機能を磨き、行政に馴染む形へ適応させる試みだ。安全と利便の最適点はどこか。日本発のルールと国際的な仕様が交差する場所で、行政のためのAIが実用の速度を手に入れつつある。
共同開発の行き先、広島AIプロセスの延長線
両者が合意したのは、個別機能の提供にとどまらない「一緒に作る」姿勢である。行政の業務効率化や働き方の改善につながるアプリケーションを共同で検討し、実証を重ねる。どの作業をAIに預け、どの判断を人が担うのか。アプリの設計は、行政の作法とAIの特性をすり合わせる営みそのものである。
視線の先には国際協調もある。G7発の「広島AIプロセス包括的政策枠組み」を、アジアや新興エコノミーを含む多様な主体へ広げる方針を双方は共有した。民間と政府、学術界や市民社会が足並みをそろえることで、世界のどこでも安全・安心・信頼できるAIが使える未来像が浮かぶ。
国内での使い勝手を高めながら、国際的なガバナンスづくりに寄与する――二つの動きは矛盾しない。制度と技術、現場と政策が循環すれば、公共サービスは静かに強くなる。今回の連携は、その循環を太くする試みだ。偶然ではなく、必然としての一歩が刻まれた。
