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途上国の財務省の口座に、使われないままの数字が静かに積もっている。日本の無償資金協力で調達した物品の売却代金「見返り資金」について、会計検査院の調査で30カ国、計約59億円が少なくとも5年以上眠る実態が明らかになった。社会開発に回るはずの原資が滞留し、「開発効果が発現していない」との指摘が突き刺さる。改善を求められたのは外務省とJICAであり、仕組みのほころびが浮かぶ。
眠る「見返り資金」が映すほころび
現時点で確認されている範囲では、対象は1992年度から2017年度に交換公文を結んだ無償資金協力で、総額は約926億円規模とされる。そのうち24年度末時点で30カ国に計58億8812万円が積み立て後少なくとも5年以上動かず、多くは10年規模、20年超の例もあるという。資金は相手国の社会開発に充てるためのローカル通貨で、本来は小規模でも生活に直結する案件を後押しするはずの原資である。
長期の未使用は機会損失に直結する。物価上昇や為替の変動で購買力が目減りし、学校の修繕や診療所の備品更新といった身近な改善が先送りされる構図が広がっている。現地では「資金はあるのに動かない」という皮肉な状況が続き、資金の趣旨である社会開発の加速が止まっていると映る。
検査院は「開発効果が発現していない」と指摘し、相手国ではなく日本側の確認や働きかけの不足を問題視したとされる。見返り資金は相手国に帰属し、使用期限の規定はない一方で、日本は外交政策として一定の関与を行う立場にある。残高の把握や使途協議の継続性が弱く、制度の中間領域が空白になっていたとみられる。
制度のしくみと「関与」の線引き
見返り資金は、無償資金協力で調達した食料や資機材を相手国が国内で売却し、その代金を口座に積み立て、経済社会開発に再投資する仕組みである。資金は相手国の所有と位置づけられ、使途の最終決定権も相手国にある。他方で、日本側は在外公館などを通じて残高や使用状況の報告を受け、使途協議に参加する関与が想定されている。
しかし現場には揺らぎが残った。マダガスカルやエリトリアの一部事業では、積み立て後に一度も協議が行われず、資金も動かないままだったとされる。日本側が積立口座の所在や残高を十分に把握していなかったり、相手国に活用を促す働きかけが弱かったりしたケースもあった。制度の設計と運用のあいだに、見過ごされた隙間があったとみられる。
一部報道は相手国の怠慢をなぞるが、検査院の見立ては「日本側の確認と働きかけの不足」に重心があるといえる。相手国のオーナーシップを尊重する姿勢と、援助のアカウンタビリティを確保する責務は両立しうる。両者の線引きを曖昧にしたままでは、資金の眠りは繰り返されるだけである。
改善はどこから始めるべきか
まず、口座台帳の整備と定期照合の徹底が要る。国ごとに口座情報、残高、最終使用日、予定使途を統一様式で記録し、閾値を超えた滞留に自動でアラートが出る仕組みをつくるべきだ。年次協議で使途のロードマップを合意し、未使用が続く場合は節目ごとにハイレベル協議へ引き上げる階段を用意すれば、惰性の放置は防げると映る。
次に、相手国主導の「小規模・迅速枠」を常設し、学校補修や地域医療、農業インフラなど即効性の高い案件に少額分散で投じる選択肢を広げたい。必要経費の透明化と事後評価の簡素化を両立させれば、所有と説明責任のバランスは取りやすい。使い勝手の悪さが滞留を生むなら、制度側から動線を短くする必要がある。
最後に、在外公館とJICA、相手国財務当局の三者で残高と使途の定点公表を進めたい。国別に数字の見える化が進めば、市民も議会も資金の動きを追いやすくなる。小さな地域の学校や診療所に届くはずだった資金は、いまも口座にある。眠りを覚ます仕掛けを、制度と現場の双方から積み上げられるかが問われている。
