欧州委員会（EU） AI規制見直し素案を公表、消費者団体が反発

2025.11.20

本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]

ブリュッセルの記者会見場で、スクリーンに「Digital Omnibus」の文字が映し出されると、各国メディアのカメラが一斉にシャッター音を響かせた。2025年11月19日、欧州委員会は人工知能とプライバシーをめぐるEUのルールを見直す素案を公表したのである。AIの高リスク分野に関する規則を先送りし、煩雑なクッキー同意も減らすという案だが、IT業界からは「まだ足りない」との声が上がり、逆に消費者団体は「大手IT企業寄りだ」と強く反発している。

高リスクAI規則を2027年まで先送り

今回の素案の中心にあるのが、AI法（AIを用途ごとにリスク分類し要件を定めるEU規則）で定められた「高リスク」AIへの厳格な規則の発動時期を遅らせるという決定だ。もともと2026年8月に予定されていた適用開始は、2027年12月まで延長される見通しとなった。対象となるのは、生体認証や医療、公共インフラ、信用スコア、法執行、採用や運転支援など、人々の生活や権利への影響が大きい分野のシステムである。欧州はAIや半導体で米国やアジア勢に後れを取っており、産業界からは「準備期間が短すぎる」との訴えが続いていた。

同じパッケージには、一般データ保護規則GDPRやクッキー規則の簡素化も含まれる。サイトを開くたびに表示される同意バナーを減らすため、ブラウザなどで一度だけ拒否設定を行えば、多くの追跡型クッキーをまとめて断れる仕組みが想定されている。アクセス解析など低リスクとされる用途では、バナー自体が不要になる案も示された。一方で、企業が「正当な利益」を根拠に、利用者のデータをAIモデルの学習に使いやすくする提案も盛り込まれ、2029年までに事務コストを50億ユーロ削減できると委員会は試算する。ドムブロフスキス委員は、欧州はまだデジタル革命の果実を十分得ていないと語り、規則の明確化で成長を後押しすると強調した。

デジタル権利か競争力か、割れる評価

しかし、この「デジタル・オムニバス」をどう評価するかについて、EU内の温度差は大きい。スタートアップや大手IT企業でつくる業界団体は、義務の一部延期を歓迎しつつも、依然として計算能力の閾値などが厳しすぎると主張し、さらなる見直しを求める。これに対し、欧州消費者団体BEUCや市民団体EDRiは、長年かけて築いてきたデジタル保護が一気に後退しかねないと警鐘を鳴らす。特に、クレジットや保険など金融分野でAIが利用者の属性データを幅広く用いることになれば、説明もないままローンを断られたり、推定健康状態を理由に保険料が高くなる危険があると指摘する声が出ている。

背景には、プライバシー権と産業競争力をどう両立させるかという根深いテーマがある。GDPRの修正案では、GoogleやMeta、AI開発企業などが、利用者の明示的な同意がなくても一定条件のもとで学習データとして個人情報を扱える余地が広がるとされ、人権団体は「人々の最も敏感なデータが、気づかないうちにAIの燃料にされかねない」と批判する。一方で、データ規制が厳しすぎれば、研究やスタートアップが他地域へ流出し、欧州が次世代技術の主導権を失うという懸念も根強い。今回の案は、EU理事会と欧州議会での審議を経て初めて成立し、「デジタル・フィットネス・チェック」と呼ばれる包括的な見直し作業も続く。

数年後、私たちがクリックするクッキーバナーの回数や、行政サービスでAIにどこまで判断を委ねるかは、いま始まったこの議論の行方によって静かに形づくられていく。