本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
各国の戦闘機やドローンをつなぐ巨大な構想が、静かに曲がり角を迎えている。英紙フィナンシャル・タイムズの報道によれば、ドイツとフランスの両政府は、共同で新型戦闘機そのものを造る計画をいったん脇に置き、将来戦闘航空システム「FCAS」での協力を指揮統制や情報共有の仕組みに絞り込む方向で議論しているという。当初は約1000億ユーロと見込まれた巨額投資も縮小が検討されており、欧州防衛協力の象徴とされた計画の行方に、静かな注目が集まっている。
独仏が描いた「第6世代」構想と、いま起きていること
FCASは2017年に立ち上がった独仏主導の次世代戦闘機計画で、のちにスペインも加わった。フランスのダッソー・アビエーションと欧州エアバス、スペインのインドラ・システマスが中核となり、フランス空軍のラファール、ドイツとスペイン空軍のユーロファイターを、2040年ごろから順次「第6世代」と呼ばれる新しい戦闘システムへ置き換える構想だった。ここでいう「システム」とは、単なる1機の戦闘機ではなく、有人機と無人機、センサー網や指揮所を一体運用する仕組みを指す。
しかし現在、独仏はこの計画のうち、戦闘機そのものの共同開発を中止し、代わりに「戦闘用クラウド」と呼ばれる指揮統制システムに重点を移す案を協議しているとされる。戦闘用クラウドとは、戦闘機やパイロット、レーダーや各種センサー、ドローン、陸海の指揮システムをネットワークで結び、膨大なデータをリアルタイムで共有する仕組みだ。これが実現すれば、既存機を使い続けながらも、標的の発見や迎撃のスピード、無人機の連携などを大きく高められると期待される一方、象徴的だった「共同の新型機」が見送られる可能性は、欧州の防衛協力に別の影を落としつつある。
企業間の主導権争いが生んだひび割れ
こうした路線変更の背景には、企業間の根深い対立があると伝えられる。フィナンシャル・タイムズによると、戦闘機の製造方式や設計権限、作業分担、サプライヤーの選定などをめぐって、エアバスとダッソーが鋭く対立してきた。フランス側企業に開発の主導権を与えるべきだとする主張に対し、ドイツ側は「単独主導では協力にならない」と不満を募らせてきたとされる。情報筋の中には、フランスが作業全体の約8割を担うことを求めたと語る者もいるが、ダッソーはそうした見方を否定している。
FCASはこれまでも、作業分担や知的財産権をどう扱うかをめぐり、たびたび交渉が滞ってきた。独仏両国の国防当局は最近になって、年末までに計画の姿を「はっきりさせる」と表明し、政治レベルでは協力継続への意欲を強調している。だが現実には、企業側の利害調整が難航する中で、最も象徴的でリスクも大きい戦闘機の共同開発よりも、指揮統制やネットワークなど、比較的分担しやすい分野に協力範囲を狭める案が勢いを増しているように見える。独仏にとってFCASは産業政策であると同時に安全保障政策でもあり、その二つをどう両立させるのかが、大きな試金石となっている。
ウクライナ戦争後の欧州防衛と、ネットワーク重視への転換
ロシアによる2022年のウクライナ侵攻以降、欧州連合は防衛協力の強化を掲げ、弾薬の共同調達や装備の標準化などに動き出した。FCASもその象徴の一つとされ、欧州が米国製兵器への依存を減らし、自らの技術と産業基盤で空の優位を保つという政治的意味を帯びてきた。もしも独仏が戦闘機の共同開発を断念するなら、こうした「欧州の自立」をめざす流れに冷や水を浴びせかねないとの懸念は根強い。ただ一方で、計画そのものを破棄するのではなく、形を変えてでも続けようとしている点に、両国の強い危機感もにじむ。
今回の協議で焦点となっている戦闘用クラウドは、ウクライナでの戦いで重要性が再確認された分野でもある。前線上空を飛ぶ戦闘機と、後方のレーダーサイト、さらに多数のドローンや地上部隊を、遅延の少ないネットワークで結び直すことができれば、個々の機体は従来のままでも、部隊全体の目と耳、そして反応の速さは大きく変わる。欧州の防衛政策が、華やかな新型機のシルエットよりも、見えないデータの流れに重心を移しつつあるのだとすれば、独仏がこれから下す決断は、その方向性を象徴するものになるだろう。
年末までに示されるとされるFCASの新たな姿は、欧州の空を守る仕組みだけでなく、各国がどこまで利害を越えて手を携えられるのかを静かに映し出しそうだ。