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薄い砂埃が舞う午後のガザで、停戦への道筋はまた遠のいた。英メディアなどの取材によれば、ガザのハマス軍事部門の指揮系統が、アメリカが提示した停戦を含む新たな和平計画に応じる意思を示していないとみられる。計画はイスラエルが支持し、米政権は早期判断を迫るが、現地の不信と計算が交錯し、戦闘継続の空気が濃い。
揺れるガザの意思決定
ガザ内部では、軍事部門が複数の仲介者に対し「計画はハマス排除を意図するものだ」との認識を伝えたとされ、妥協の余地は小さいとの見方が広がっている。現時点で確認されている範囲では、軍事指揮系統は戦闘継続の意思を固め、対外的にシグナルを発していると映る。仲介の手は伸びるが、現場の温度は依然として高い。
一方、カタールにいる政治部門の一部には、条件修正を前提に計画受け入れを探る柔軟論があると伝えられる。ただ、ガザの外にいる関係者は人質管理の権限を持たず、交渉レバーが弱いのが実情だ。意思決定が二層化する構図は、仲介ルートを増やしながらも、最終的な着地点をぼかす作用を生んでいるとみられる。
ガザの指揮系統が握る切り札は、いまも拘束が続く人質の存在である。交渉は人命と軍事上の利害が絡むゼロサムの様相を帯び、同一組織内の温度差は外部からの働きかけを吸収しづらい。誰に有利なのか、そしてそれは偶然か必然か――現地の声ほど、世界の首都の会議室に届きにくい現実が浮かぶ。
米国案の輪郭とイスラエルの応答
アメリカが示した計画は二十を超える項目から成るとされ、即時停戦、包括的人質・囚人交換、イスラエル軍の段階的撤収、そして国際的権限による暫定統治の樹立を含む枠組みだ。ハマスには武装解除と戦後統治からの退く姿勢が求められ、戦後秩序の設計図を先に描いて武装組織の影響を削ぐ設計に見える。
米政権は短期間での意思表示を促してきた。9月下旬には合意が近いとの楽観的な発言が続き、10月2日には反応期限の扱いをめぐる説明が改めて注目された。大統領が提示した数日の目安は示されたものの、最終的な線引きは流動的で、仲介側の焦りと当事者の逡巡が同居する時間軸になっているといえる。
イスラエルはこの計画を支持すると報じられているが、ガザでの安全保障の取り扱いはなお最大の争点だ。計画に盛り込まれた暫定統治のイメージは、国際社会の関与を前提に治安と復旧を回す発想である一方、現地では「新たな形の支配」との反発も根強い。安全と主権、その線引きの難しさがにじむ。
人質、信頼、そしてドーハの衝撃
人質は現在も48人が拘束され、うち約20人が生存しているとみられる。提案は短期間での全員返還を求める方向で伝えられ、ハマス側が交渉力を一挙に失う構図が障壁になっているとの分析がある。合意が近いと語られた9月下旬から、現地側の防衛的な計算はかえって強まった可能性があると映る。
不信を決定的にしたのは9月9日のドーハ空爆である。カタールの首都でハマス首脳を狙った攻撃が発生し、同国は主権侵害だとして強く非難した。仲介の舞台そのものが攻撃対象となった出来事は、返還後の再攻勢を恐れるハマス内部の疑心を増幅させた。和平手続きの土台である信頼の脆さが露呈した瞬間だった。
戦争は長期化し、ガザの死者は6万5千人超と伝えられる。数字の背後には、家族の名を呼び続ける声がある。和平計画は「人質の全員帰還」と「停戦の定着」を同時に走らせる綱渡りで、わずかな段差が全体を崩しかねない。誰が譲り、何を担保するのか。細く不安定な橋を、一歩ずつ確かめる局面が続いている。
