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外相機の座席は空いたまま、北京の秋風だけが動いていた。2025年10月27日、ドイツのワーデフール外相が直前で訪中を延期したとの報が広がる一方、独中双方は関係悪化の観測をいっせいに否定した。輸出規制や安全保障で摩擦は残るが、対話の窓は閉じていないという合図である。焦点は、相互不信の温度をどう下げ、実務の線をつなぎ直すかに移っている。
すれ違いの中で保たれた「窓」
空港での出迎えは消えたが、両政府の言葉は強い遮断を避けている。延期が伝わった27日、ドイツ側は中国との「敬意に満ちた良好な交流」への関心は不変だとする趣旨の説明が報じられ、今回の判断が今後の政策全体に大きな影響を与えるとはみていないと示したとされる。メルツ政権下での初の閣僚訪中が見送られた格好だが、次の機会を視野に入れた含みが残る。
中国側も、関係を戦略的かつ長期的な視点で捉える立場を繰り返し示してきた経緯がある。ベルリンでの要人往来や共同会見では、対立の火種を抱えつつも「共通の大義」を探る姿勢が語られてきた。今回の延期理由については、会談の組み立てや優先順位づけの難しさが背景にあるとの見方が広がるが、現時点で確認されている範囲では、対話チャンネルの維持に重心を置く態度が双方に映る。
外交では「次」を確保できるかが実務の生命線になる。閣僚往来の再調整に加え、分野別の実務対話を積み増せるかが鍵だ。延期が象徴するのは距離の広がりではなく、優先課題の擦り合わせに時間が要るという現実に近い。手順を踏んで積み直せば、関係全体の温度を静かに下げる余地は残っているとみられる。
経済と安全保障、絡み合う懸念
緊張の底には、経済と安全保障が交差する構図がある。ワーデフール氏は外務省の演説で、希土類など重要資源の過度な依存がもたらす脆弱性に言及し、自由と繁栄を守るには依存の偏りを是正する必要があると示唆した。供給網を政治が揺らす局面が続けば、企業の投資判断は保守化し、経済全体の弾力が落ちるという警鐘でもある。
同氏は8月に東京での講演でも、ロシアのウクライナ侵攻が中国の支援に支えられていると厳しく批判し、同時に米国の高関税政策を「破壊的」と評したと報じられた。大国間の対立が通商や技術、人の往来に波紋を広げ、同盟国やパートナーの選択も難しくする現実が浮かぶ。ドイツの対中スタンスが引き締まる一方で、経済の基盤を揺さぶる過度な分断は避けたいという複雑な心情もうかがえる。
中国側は7月のベルリンでの共同会見で、殺傷能力の高い兵器は提供せず、無人機を含む軍民両用品の輸出も厳格に管理していると強調した。欧州の安全保障をめぐる溝は簡単に埋まらないが、立場の相違を公開の場で言葉にし、相互の「赤線」と可能な協力余地を描き出す作業は続いている。今回の延期が、その線引きを練り直すための時間でもあると映る。
ビジネスの視線と次の一手
現場の企業は、政治のうねりを受け止めながら日々の取引を回している。輸出規制や監視強化が続くほど、契約や投資の前提は揺らぎやすい。だからこそ、政策の予見可能性と透明性を高め、実務レベルの合意を積み上げることが重要になる。企業からは、問題点を明確化し、適用範囲や期限を具体的に示してほしいという声が繰り返し上がっている。
同時に、政治的動機が色濃い貿易摩擦は繁栄を削るという懸念も根強い。関税や相互の規制は短期的な交渉材料になり得るが、長期の投資や雇用、技術協力には冷却効果が大きい。独中の経済規模と相互依存の実態を踏まえれば、対話のループを閉じない工夫が欠かせない。延期の先に、外相訪中の再調整や分野別対話の連結を図れるか。次の一手が、両国関係の温度を決める。
