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人々が長い列を作っていた配給所が、静かに幕を下ろした。ガザで食料支援を担ってきた民間団体「ガザ人道財団（GHF）」が2025年11月24日、活動の終了を公表した。米国とイスラエルの後押しを受け、国連など既存の枠組みを迂回してきた組織である。イスラエルとハマスの停戦が10月10日に発効した後、配給は一時停止していた。半年足らずで1億8700万食を配った一方、その拠点周辺では数百人規模のパレスチナ人が銃撃で死傷し、激しい批判も積み重なっていた。
銃撃に揺れた「新しい支援モデル」
GHFの配給は2025年5月末に始まった。ガザへの物資搬入が厳しく制限され、飢餓の懸念が高まる中、米国とイスラエルが主導した「代替ルート」として打ち出されたものだ。国連機関や国際NGOを迂回し、イスラエル側の管理下にあるガザ南部などに大規模拠点を設け、独自の物流網と警備体制で食料を届けると説明してきた。背景には、国連の配給効率や援助物資の流用をめぐる米イスラエル側の不信感があり、武装勢力から切り離した支援モデルを示す狙いがあったとされる。
しかし現場の風景は、掲げた理念とは大きく隔たった。多くの拠点は人口密集地から遠く、人々は長距離を歩いて向かわざるを得なかった。開設当初、拠点周辺では殺到する群衆に対してイスラエル軍や米民間警備会社が発砲し、数百人が撃たれ死亡したと報じられている。国連の専門家パネルは、GHFの仕組みが軍事・地政学的な目的に利用された疑いを指摘し、人道原則との両立に疑問を投げかけた。イスラエル側は「兵士に接近したため発砲した」と説明するが、ガザの人々にとって配給所は、食料と同時に恐怖も思い起こさせる場所になってしまった。
数字が示す限界と軍主導の枠組みへの継承
GHFは、活動の打ち切りに合わせて、これまでにガザ住民へ約1億8700万食を提供したと明らかにした。期間はおよそ半年、対象人口は約200万人とされるため、単純計算では「1人1日1食」に満たない水準にとどまる。イスラエルによる封鎖や戦闘で壊れたインフラを考えれば、物理的制約が大きかったことも事実だが、国連や他の援助団体が求めてきた必要量には遠く届いていない。支援の「量」と「出し方」の両方で限界があったことを、数字は静かに語っている。
一方でGHFのジョン・アクリー事務局長は、活動を終える理由として「モデルは成功し、今後は米国主導の多国籍調整センターが採用し拡大する」と強調した。イスラエルに設置されたこのセンターは、トランプ米大統領の20項目からなるガザ停戦計画を実行する中核拠点で、軍と文民が一体で治安維持や支援物流を担う仕組みだとされる。GHFは元々一時的な緊急措置と位置づけられ、資金面や国際的な批判の高まりから、正式な戦後支援枠組みには加わらなかった。にもかかわらず、その「軍主導の配給モデル」が新たな枠組みに引き継がれることは、人道支援と安全保障をどう切り分けるのかという難題を、今後もガザにもたらし続けることになりそうだ。
かつて人波であふれた配給所には、いまは空になった段ボール箱と砂ぼこりだけが残る。その脇を歩く人々の足取りの重さが、この半年の支援と暴力の記憶を静かに刻み続けているように見える。
