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世界の軍需企業の売上が、また一段と膨らんでいる。スウェーデンの研究機関の集計では、2024年に上位100社の軍需売上が前年より5.9％増え、過去最高を更新したという。同じ統計で、日本企業の売上も約40％増の133億ドルと急伸した。政府が台湾有事を想定し、南西諸島で自衛隊態勢の強化を急ぐなか、工場や港では静かに軍拡の波が押し寄せている。
南西諸島で感じる「備え」と生活のはざま
沖縄や奄美など南西諸島では、この数年で自衛隊施設の新設や火薬庫の拡充工事が相次いでいる。政府は台湾周辺の緊張を念頭に、島しょ部への部隊配備や弾薬・燃料の備蓄を強化してきた。一方、観光や漁業で成り立つ地域社会では、ミサイル部隊の常駐が避難計画や土地利用にどんな影響を与えるのか、不安と戸惑いが交錯している。
世界の軍需市場が伸びている背景には、ウクライナやガザで続く戦闘と各国の国防費増額があるとAP通信などが伝えている。その流れが、日本の離島にも形を変えて押し寄せる。港には新たなレーダーや車両が運び込まれ、基地周辺の道路整備が進む一方で、医療や公共交通といった生活インフラの脆弱さは依然として残されたままだ。
地元の建設会社や運送業者には、防衛関連工事の受注が増え、雇用面での追い風もある。だが、災害時の避難路が軍事目的と競合しないか、武力攻撃時に民間人が巻き込まれないかといった懸念は消えない。軍需産業の成長が地域にもたらすのは、単純な「景気刺激」ではなく、安全と生活のバランスをめぐる選択の連続である。
企業と政府が描く「防衛産業立て直し」のシナリオ
今回の統計では、日本の防衛関連企業の軍需売上が2024年に約40％増え、133億ドルに達したとされる。世界全体の規模から見ればまだ一桁のシェアに過ぎないが、長く縮小傾向にあった国内防衛産業にとっては大きな転機だ。各紙の報道によれば、ミサイルや指揮通信システムの増産に向けて、工場のライン増設や技術者の採用を進める企業も出ている。
政府は、こうした動きを一時的な特需で終わらせないために、装備品の輸出ルールの見直しを進めている。ジャパンタイムズによると、殺傷能力のある装備の輸出制限を一部緩和し、フィリピンへの国産地対空ミサイルの輸出を巡る非公式協議も行われているという。国内需要に加え海外市場も取り込むことで、研究開発費を回収しやすい構造をつくる狙いだ。
一方で、武器輸出の拡大は、これまで「専守防衛」を掲げてきた日本の安全保障政策との整合性を問う。紛争当事国にどこまで技術を供与するのか、人権状況の悪い国への輸出をどう線引きするのかといった判断は、企業だけでなく政府全体の説明責任を伴う。軍需企業にとっても、長期の受注と国際的な信用を両立させる経営判断が求められている。
世界的な軍拡のなかで、日本が選ぶ道
スウェーデンの研究機関がまとめた2024年のデータでは、世界の大手軍需企業100社の売上は前年より5.9％増え、記録的な水準になった。APや欧米紙の報道では、その主なけん引役は米欧の企業とされる。同じアジア太平洋でも、汚職摘発などで軍需企業が伸び悩む国がある一方、日本は受注増で存在感を高めている。
軍需売上の増加は一時的なスパイクではなく、この10年続く右肩上がりの流れでもあるとSIPRIは指摘している。最新鋭の戦闘機やミサイル防衛システムは開発期間が長く、一度契約すれば、保守やアップグレードを含めて長年にわたる収入源になる。各国が「備え」を強めるほど、産業としての軍需ビジネスは膨らみやすい構造だ。
とはいえ、軍需産業の成長がそのまま人々の安全安心につながるとは限らない。南西諸島の住民の不安や、武器輸出に伴う国際的な責任は、統計だけでは見えにくいコストでもある。防衛産業の急拡大をどこまで支え、誰がどのリスクを負うのかという判断が、日本社会の将来像を静かに形づくりつつある。
