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ソウルの空は薄く曇り、報道陣のカメラが特別検察の庁舎に向いた。2025年10月10日、世界平和統一家庭連合（旧統一教会）総裁の韓鶴子容疑者（82）が、政治資金法違反や業務上横領などの罪で起訴された。起訴状の要旨には、国外の選挙資金に関する記述も含まれたとされ、宗教と政治の接点が再び鋭く問われている。
起訴の骨子と「国外資金」の記述
特別検察は10日、韓容疑者を起訴したと明らかにした。現時点で確認されている範囲では、起訴事実は政治資金法違反、贈賄関連、業務上横領、証拠隠滅に関する罪を含むとされる。韓容疑者は逮捕後も一貫して容疑を否認しており、教団側もトップの処遇に強く反発している構図だ。裁判の場で、捜査側が積み上げてきた資金の流れや指示系統が精査される見通しである。
一方、起訴状の要旨には、教団側が2022年ごろにアジアのある国の国会議員に選挙資金を渡し、さらにアフリカの国の大統領の所属政党にも資金を提供したとの記述があると報じられた。特別検察の関係者は国名や氏名の特定を避けつつ、「日本の議員ではない」と説明したと伝えられている。国外資金の記載は、事件の輪郭に国境をまたぐ影を落とすが、詳細は裁判での立証を待つ段階と映る。
韓容疑者の身柄拘束は、9月23日に裁判所が逮捕状を発付し収監されたことに始まる。捜査は前大統領周辺の疑惑と並走する形で続いてきた。特別検察は、教団幹部らの動きに加え、指示の有無や金品の趣旨を中心に供述と物証の突き合わせを進めてきたとみられる。起訴によって、これまで点在していた事実関係が法廷で一本の線に引き直される局面に入った。
何が問われているのか
焦点のひとつは、政権中枢に近い人物への金品供与疑惑である。捜査チームは、2022年7月ごろに当時の大統領夫人に高級ブランド品が渡された事実関係を詰めており、見返りとして教団事業への便宜が働くことを期待したのではないかと疑う。教団側は「虚偽である」と反論しており、贈与の性質が社交上のものか、便宜の対価を意図したものかが争点として浮かぶ。
また、同年1月には、保守系の国会議員に対して資金が渡った疑いも指摘されている。選挙期に信徒の動員や組織的支援を見返りとして、政策的後押しや公的行事への関与を取り付けようとしたとするのが捜査側の構図だ。政治資金規正の趣旨に反する行為があったのか、そして組織のトップとしての関与や指示がどこまで認定されるのかが審理の核心になる。
さらに、教団からの資金の私的流用や、違法行為の発覚を防ぐための証拠隠滅工作があったかどうかも問われる。取り調べでは、側近や幹部の関与が相次いで浮上しており、会計処理の実態、資金移動の経路、内部での意思決定過程が鍵を握る。起訴は、単発の不正ではなく、資金と権力が絡み合う構造的問題があったのかを法廷で検証する入口に過ぎないといえる。
政治の動揺と教団の影
この事件は、前大統領の弾劾と拘束で政局が不安定化するなかで進んできた。前大統領は昨年末の非常事態宣言をめぐる混乱の末、今年4月に職を失い、現在は反乱関連の罪などで公判に臨んでいる。大統領夫人も別件で起訴され、司法の手続きが政権の中枢にまで及ぶ。特別検察の権限は限定的だが、複数の特別捜査が並行する異例の事態が続いている。
教団は国際的なネットワークと事業基盤を持ち、過去にも資金調達の手法や政治との距離感をめぐって社会の批判にさらされてきた。日本でも旧統一教会をめぐる問題は政界に波紋を広げ、宗教団体と政治の関係を見直す議論が進んだ経緯がある。韓国での審理は、その国際的な実像を改めて映し出し、ガバナンスや透明性に対する社会の視線をさらに厳しくするだろう。
国外への資金流出が起訴状に記されたとする一部報道は、捜査が国境を越える可能性を示唆する。特別検察関係者は「日本の議員ではない」と明言したとされるが、国名や氏名は伏せられたままだ。外交や治外法権の問題を内包するだけに、事実確認と司法協力の手続きには時間を要する。法廷で語られる新事実次第で、事件の輪郭はさらに広がっていくとみられる。
