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バングラデシュの特別法廷で判決が言い渡されると、傍聴席には緊張が走った。昨年の学生主導の反政府デモ鎮圧を巡り、インドに滞在中のハシナ前首相に死刑が宣告されたのだ。国連が最大1400人の死亡に言及する暴力の責任をどう問うのか。同国の司法の信頼性と、民主主義の進む方向を占う試金石となる判断が示された。
ハシナ前首相に死刑判決 学生デモ弾圧への関与を裁判所が認定
バングラデシュの裁判所は2025年11月17日、昨年の学生主導の反政府デモ鎮圧で人道に対する罪を犯したとして、シェイク・ハシナ前首相に死刑を言い渡した。審理は首都ダッカの国際犯罪法廷で行われ、国外にいるハシナ氏不在のまま進んだ。同じ事件でアサドゥッザマン・カーン・カマル元内相にも死刑が宣告されている。判決に対しては最高裁判所への上訴が認められており、最終判断までには時間がかかる見通しだ。
検察側は、2024年7〜8月にかけて続いた学生らによるデモを鎮圧する過程で、ハシナ氏が治安部隊に対し実弾を含む殺傷力の高い武力行使を直接命じたと主張した。デモは公務員採用枠を巡る不満から始まり、やがて政権退陣を求める全国的な運動へと拡大した。裁判所は、こうした指揮命令や暴力を防ごうとしなかった責任を含め、人道に対する罪が成立すると判断した。
国連の調査報告書は、デモ期間中に治安部隊による発砲などで千人を超える死者と、数千人規模の負傷者が出た可能性を指摘している。犠牲の規模は同国の独立戦争以来で最悪とされ、行方不明者や恣意的拘束も各地で報告された。今回の判決は、こうした一連の暴力に対する初めての大きな司法判断として、国内外の視線を集めている。
公平性への疑念と「歴史的」評価 揺れる正義と政治
これに対しハシナ氏は、今回の判断は偏見に満ちた政治的な裁きだと厳しく批判している。自らの発言として、証拠が公正に吟味される適切な法廷であれば、告発者たちと向き合うことを恐れないと強調した。国際人権団体も、被告不在のまま短期間で審理が進んだことや、死刑を科した点を問題視し、公平な裁判の保障や死刑廃止の観点から懸念を示している。
一方、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏を首席顧問とする暫定政権は、この裁きを「歴史的」と評価し、犠牲者や遺族への一歩だと位置づける。同国外交当局は、インドに滞在するハシナ氏とカマル元内相の身柄引き渡しを正式に要請した。インド政府は判決に注意を払っているとしたうえで、バングラデシュ側と建設的に協議すると述べたが、具体的な対応には踏み込んでいない。
大規模な人権侵害への責任追及を進めつつ、手続きの公正さや政治的中立性をどう確保するかは、バングラデシュ社会にとって大きな課題だ。今回の判決を機に、真相究明と被害者救済、そして将来の暴力の再発防止を両立させる枠組みづくりが求められている。
