本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。[続きを表示]ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
米ホワイトハウスは1日(現地時間)、9月にカリブ海で行われたベネズエラ発の船舶への空爆について、ピート・ヘグセス国防長官が作戦を指揮した海軍司令官に複数回の攻撃を許可していたと認めた。麻薬密輸対策を掲げた作戦は、船体の破壊だけでなく、生存者をも標的にした疑いがあり、どこまでが「自衛」として許されるのかという国際法上の線引きが改めて問われている。
救助義務と「麻薬戦争」がぶつかった現場
問題となっているのは、9月2日にカリブ海の公海上で行われた攻撃だ。ホワイトハウスの報道官は、ベネズエラを出港したとされる小型船が違法薬物を運んでいたと主張し、ヘグセス長官がフランク・ブラッドリー海軍中将に「キネティック(武力)攻撃」を複数回実施する権限を与えたと説明した。攻撃により少なくとも11人が死亡したとされるが、当局は誰が乗船していたのか詳しい身元を明らかにしていない。
一方、ワシントン・ポスト紙などは、最初の空爆後に船が大破し、海上に取り残された2人の生存者に対して、追撃が行われたと報じた。同紙は、ヘグセス長官が作戦前に「生存者を残すな」という趣旨の口頭指示を出し、それに従ってブラッドリー中将が2度目の攻撃を命じたと伝えている。もし負傷者や漂流者を意図的に狙っていたとすれば、戦闘行為に直接参加していない者の殺害を禁じる戦時国際法に抵触するおそれがある。
公海上で遭難者を救助する義務は、ジュネーブ諸条約や海洋法条約などでも繰り返し確認されてきた原則だ。米国自身も、他国の行動を批判する際には「ルールに基づく海洋秩序」を掲げてきた。麻薬密輸船と見なした瞬間に、その乗員を救う義務まで消えるのか――今回の作戦は、その根本的な問いを突きつけている。
犠牲者の多くは、カリブ海沿岸の貧しい漁村出身の若者だと指摘する声もある。実際、周辺国の治安当局は、組織犯罪に雇われた「運び屋」が危険な航海に従事している実態を以前から把握してきた。政府が彼らを一括して「ナルコテロリスト」と呼ぶとき、その背後にある貧困や雇用の問題は、海の上から見えにくくなってしまう。
テロとの戦いになぞらえる米政権の論理
ヘグセス長官はこれまでも、ベネズエラ発のボートを含む標的を「麻薬テロ組織」と位置づけ、軍事作戦を「カルテルとの武力紛争」だと繰り返し表現してきた。米政府はトレン・デ・アラグアなど一部組織をテロ団体に指定し、アルカイダやイスラム国と同列に扱うことで、通常の治安作戦よりも広い殺傷権限を正当化しようとしている。
9月2日の攻撃開始以降、米軍はカリブ海から東太平洋にかけて少なくとも10回の船舶攻撃を行い、累計40人以上が死亡したと報じられている。ヘグセス長官はSNS上で、夜間の暗視映像などを公開しながら「我々は連中をテロリストと同じように追い詰め、殺害する」と強調した。ドナルド・トランプ大統領も、こうした作戦により海上から米国に入る麻薬の量が減ったと主張し、「1隻ごとに何万人もの命を救っている」と語っている。
ホワイトハウスの報道官は今週の会見で、ブラッドリー中将は「権限と法の範囲内で」2度目の攻撃を命じたと説明し、ヘグセス長官が「全員を殺せ」と指示したとの報道を否定した。司法省もこれまで、テロ指定された組織による攻撃を阻止するための武力行使は、憲法上の大統領権限と国際法上の自衛権に基づき正当化できるとの立場を示してきた。
しかし、米議会では超党派の議員が一連の作戦の検証を求めている。特に、救助可能な生存者をあえて攻撃していたとすれば、米軍人を戦争犯罪の危険にさらすと懸念する声が強い。かつて中東やアフリカで展開された無人機作戦でも、テロ容疑者と民間人の線引きが問題となったが、今回は「麻薬密輸」という本来は刑事事件の領域に、同様の論理が持ち込まれつつある。
南米の反発と、海のルールに残された問い
標的となる船が出港するベネズエラや、周辺の南米諸国の受け止めは厳しい。ベネズエラ政府は、米軍の作戦を主権侵害だと批判し、「国民への攻撃」と位置づけている。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領も、最近の攻撃を「殺人」だと非難し、犠牲者は犯罪組織の幹部ではなく、経済的に追い込まれた若者たちだとの見方を示した。地域の左派政権だけでなく、中道政権からも懸念が示されている。
米国内の人権団体は、死亡した乗員の身元や証拠の開示を求めているが、詳細はほとんど公表されていない。航路上に位置する小さな島々では、急増する爆発音や軍用機の飛来に不安を訴える住民もいる。海上での取り締まりを強化する一方で、沿岸コミュニティの雇用や教育に投資しなければ、若者が再び密輸に引き寄せられるという指摘もある。
もう一つの懸念は、先進国が自国の治安を理由に、公海上での武力行使を広く認める前例をつくることだ。今回の作戦を他国がなぞれば、「不審船」や「テロ容疑」を口実に、遠方の海での攻撃が正当化されかねない。東アジアでも海上警備をめぐる緊張が続くなか、どの国にとっても無関係な議論ではない。
麻薬と暴力の連鎖を断ち切るには、密輸網と対峙するだけでなく、海の向こう側にいる相手をどこまで「敵」ではなく人間として扱うのかという問いからも、逃れ続けることはできないだろう。
参考・出典
- White House says admiral approved second strike on boat from Venezuela, defends attack as lawful
- White House says Hegseth authorised admiral to strike alleged drug boat
- White House confirms second strike on alleged drug boat, but denies Hegseth gave the order
- Latest US strike on alleged drug-running boat kills 6, Hegseth says
