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エルサレムの軍報道官室で声明文を読み上げる声が静まり、報道陣の間にざわめきが広がった。イスラエル軍が2025年11月26日、占領下のヨルダン川西岸北部で新しい軍事作戦を始めたと公表したのだ。軍はこれを「対テロ作戦」と呼ぶが、その言葉は現地で暮らす人々の日常に、さらに濃い影を落としている。停戦が成立したガザからは離れた地で、緊張だけが積み重なっている。
新作戦は何が違うのか
軍と国内治安当局は共同声明で、西岸北部の「北部サマリア地域」で広範な作戦を開始したと説明した。イスラエル側は、今年1月から続いてきた別の対テロ作戦とは異なる新たな枠組みだと強調し、前の作戦では主にパレスチナ難民キャンプが標的だったと述べている。都市と農村が入り交じるこの一帯には、多くの検問所や入植地が点在し、住民は長年、軍事行動の余波の中で暮らしてきた。
ヨルダン川西岸は1967年の戦争以来、イスラエルの占領下にあり、最終的な地位をめぐる交渉は停滞したままだ。2023年10月にイスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃を行い、ガザで大規模な戦闘が始まってから、西岸でも銃撃や家宅捜索が増えた。今年10月10日にはガザで停戦が発効したが、西岸では夜間の突入作戦や路上での衝突が続き、住民は「別の戦場」に取り残された感覚を抱いている。
数字に表れない日常 続く犠牲
エルサレム発のAFPの集計では、昨年10月以降、イスラエル軍や入植者によって西岸で命を落としたパレスチナ人は1000人を超える。パレスチナ保健省のデータを基にした数字であり、その中には武装勢力だけでなく、多くの民間人も含まれるという。一方、イスラエルの公式発表では、パレスチナ人の攻撃や軍の作戦の中で少なくとも44人のイスラエル人が死亡しており、兵士と民間人の双方が犠牲になっている。
数字の背後には、夜ごとに玄関のドアをたたく音におびえる子どもや、検問所で長時間足止めされる通勤者の姿がある。西岸では自治政府が行政を担う地域と、イスラエル軍が全面的に支配する地域が複雑に入り組み、移動や経済活動は常に軍事状況に左右されてきた。ハマスの越境攻撃以降に強まった軍の作戦は、「治安確保」と「占領の固定化」という相反する評価を同時に呼び起こし、和平交渉が見えない中で不信だけが積み上がっている。
ガザで銃声がやんだ今も、西岸の町では装甲車の走行音が近づくたび、人々が窓の外をうかがう。今回の新作戦がどれほど長く続くのか、誰にも分からないまま、日常と緊張が同じ通りを行き交っている。遠くに聞こえる礼拝の呼び掛けの声さえ、いつ妨げられるのかと、人々は耳を澄ませているように見える。静かな夜でも、緊張は解けないままだ。
