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会議室で、彼は首をかしげた――「そんなに少ない？ それは予備役のことか」。イスラエルの紛争研究者が日本の自衛隊の規模を聞いたときの反応だ。防衛省の最新資料では、2025年3月31日現在の現員は22万0252人。数の感覚の差は、同盟と自助のバランスをどう描くかという根源的な問いを映す。
22万人の現実を直視する
防衛省は、自衛官の定員を24万7154人と示し、現員は22万0252人としている。充足率は89.1％。国の意思としての「定員」と、実際に任務に就く「現員」の差が、静かに存在している。数字は乾いているが、隊舎や艦橋や滑走路の現場にその重さが宿る。
内訳をみると、陸上自衛隊13万1293人、海上自衛隊4万1818人、航空自衛隊4万2608人、統合幕僚監部など4533人という姿だ。任務の性格が異なる三自衛隊で、いずれも九割前後の充足にとどまる。即応体制の隙間をどう埋めるかが、日常の課題として横たわる。
一方で、補完戦力の姿も見える。2024年3月31日現在の整理では、予備自衛官4万7900人、即応予備自衛官7981人、予備自衛官補4621人が掲げられている。名称は似ていても役割や位置づけは異なる。いざという時、誰がどこへ、どれだけの速さで動けるのかが鍵となる。
イスラエルとの比較が映すもの
戦闘の記憶が途切れないイスラエルは、徴兵制と大規模な予備役を中核に置く。対して日本は志願制で、同盟抑止を前提に自衛隊を運用する。土台から違う二つの国を人数だけで並べても、適切な像は結ばれにくい。比較はしばしば、見たいものを拡大する鏡になる。
誰に有利な比較なのか。地理、人口密度、脅威の向き、法制度、産業基盤――それぞれの前提が兵力構成を決める。イスラエルの研究者が驚いた22万人という数字は、日本の安全保障の重心が「自前の数」ではなく「同盟の質」に置かれてきた歴史を照らし出す。
では、米国が来ない場合にどう守るのか。単純で強い問いが残る。ミサイル防衛から島嶼防衛、災害対応に至るまで、自衛隊は幅広い任務を抱える。同盟の相互運用性は背骨だが、グレーゾーンや長期の継戦となれば自助の厚みが問われる。比較の罠の先に、現実の設計がある。
数を増やすだけでは届かない課題
人は急には増えない。採用、教育、熟練に年単位の時間が要る。だからこそ、限られた現員で即応と継戦をどう回すかが勝負どころとなる。装備の可動率、補給と弾薬、基地の防護、サイバーと情報の統合。数の外側で決まる戦力化の度合いが、静かに差を生む。
補完戦力の磨き方も要る。予備自衛官や即応予備自衛官を、災害と防衛の双方でどう運用するか。動員手順、家族と企業を含む社会の合意、地域の受け皿。平時の設計が有事の速度を決める。量ではなく、使える形の備えにするという発想が広がっていると映る。
そして国民保護の線引きだ。ミサイル警報、避難、ライフラインの維持。自衛隊だけでは完結しない領域が、実は最前線に近い。自治体と企業、住民が噛み合うほど、部隊の負担は減り、抑止は厚くなる。数を問う議論は、社会全体の準備という鏡像を伴うべきだ。
