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秋の光に包まれた管制室のモニターに、白い機体が静かに映える。JAXAの次世代補給船「HTV-X」が、国際宇宙ステーション（ISS）補給の新たな主役として姿を現した。最新映像の公開で最終盤の空気が濃くなり、今月下旬の種子島発を見据えた機運が高まっている。輸送能力と柔軟性を磨き、長期の軌道運用まで視野に入れる設計は、ISSの“次”を準備する日本の意思を映す。
映像が伝える最終局面の手触り
映像には、与圧モジュールとサービスモジュールが組み上がり、表面の防護板や各種インターフェースが整えられた姿が映し出される。カメラは艤装の細部に寄り、運用の現場が用語ではなく道具と手つきで語られていく。開発が「見せられる段階」に入ったこと自体、機体と地上系の統合が仕上げに差しかかったサインと映る。
JAXAはこれまで、報道機関向けの機体公開や技術実証ミッションの概要説明を重ね、強化点を段階的に明らかにしてきた。映像公開は、残された不確実性が限られることを示唆する。実機の前で語られた担当者の言葉には、運用の現実感が宿っていた。問われるのは、誰にとって何が便利になるのか、という視点である。
今月下旬の打ち上げを目指す動きは、映像のテンポにも重なる。ISSへの補給は一次性の高い作業だが、HRR（最終貨物搭載）や連携試験など地上での「間」を詰めるほど、軌道上の余白が増える。最新映像は、その余白を拡張する設計思想を、無言のままに伝えているように見える。
積む量と運ぶ仕組みの一新
HTV-Xは「こうのとり（HTV）」の後継だが、単なる置き換えではない。輸送能力は約1.5倍となり、最大で約5.85トンを運べると説明されている。外部搭載部の空間はおよそ6割拡大し、大型の実験装置や搭載物にも余裕を持って応える。量を増やすだけでなく、形の大きさや重心の取り回しに幅が生まれたことが効いている。
搭載の自由度は、時間の自由度とも結びつく。従来は打ち上げ約80時間前までだったレイトアクセス（直前搭載）が、24時間前まで可能になったと説明された。生鮮食品や温度管理が求められる試料をより新鮮なまま届けられるうえ、急な科学ニーズの変化にも追随しやすい。誰に有利なのかと問えば、ISSの研究者と軌道上のクルー双方に利する更新である。
電源・熱の面でも改良が進む。冷蔵庫や冷凍庫、電力を要する実験装置への安定給電が前提化され、輸送が「止める・冷やす・測る」を含んだサービスへと近づいた。加えて、与圧室内の静粛性が意識的に高められており、入室作業や機器操作の集中度を支える配慮が見える。輸送船が研究環境の一部へとにじむ設計思想が浮かぶ。
ISSの先を見据える“長い滞在”
HTV-Xの強みとしてJAXAが繰り返し語るのは、ISS補給後も任務が続く点である。ISSからの離脱後、機体は最長で約1年半、軌道上にとどまって技術実証を重ねる設計だ。曝露部を活かした大型装置の実験、自動接近・ドッキングの検証など、輸送を起点に宇宙機そのものの能力を鍛える用途が広がっている。
技術実証のフェーズでは、おおよそ高度300～500キロの範囲でミッションを切り替えつつ、機動性と姿勢制御の精度を確かめる。地上からのレーザー測距で機体の回転を推定する「Mt. FUJI」や、超小型衛星の放出など、軌道の使い分けを前提にした実験が並ぶ。6U級の衛星を最大4基まで扱える設計が示され、1号機では1基の放出で性能確認を行う見通しだ。
こうした長期滞在の積み重ねは、ISSの退役を越えた低軌道活動、さらには月周回拠点を含む将来探査に通じる。補給の“ついで”に技術を磨くのではなく、補給を入口に技術を回し続ける構えである。偶然ではなく必然として、HTV-Xは日本の宇宙輸送を研究基盤と事業機会へ橋渡しする役割を担っていくとみられる。
